彼女は本を読んでいた。
いつも一人でいるから、ひとりが好きなのかなって思った。

だから驚いた。
みょうじさんが、あの真ちゃんと仲よさげにしゃべってる。
しかも笑ってる。

「相変わらず面白いね、真太郎くん」

「失礼だな」

眉をしかめる真ちゃんに彼女は「褒めてるんだよ」と優しく微笑んだ。

その横顔に息を呑む。

それが一目惚れだと気づいたのは、随分と後になってからだった。







ここ最近、高尾くんに会う。

高尾くんというのは、私と同じ同級生。

緑間くん経由で知り合ったわけだけど、私は彼のことをよく知らない。


親しみやすい人だとは思う。

笑顔が優しくて、人懐っこくて、

知り合って間もないのに、話し掛けて来たり、お菓子をくれた。

優しい人だ。
この間なんか、図書の仕事を手伝ってくれた。

申し訳ない気持ちになりながらも、私は不思議で仕方なかった。

彼は何故こんなに優しくしてくれるのだろう。

いくら考えても答えは見つからなくて、私は彼に相談することにした。


「高尾?」

嫌そうな顔で彼の名前を呼ぶ。

「うん、高尾くんっていつもあんな感じ?」

「意味がわからん。高尾がどうかしたのか?」

「えっと…、誰にでもあんな感じなのかなって」

鈍いな、もう。
私はもどかしい気持ちになりながらも、説明を続ける。


「高尾くんって、誰にでも優しいのかなって」




…って、なんかこれって私が高尾くんのこと好きみたいじゃない?


顔が一気に熱くなる。

そうか、私は彼に惚れているのか。




「みょうじ?」

「あっ、いや。何でもない!」

「顔が赤いが」

「大丈夫!顔が赤いのは気のせいだから!」

何ともない。
大丈夫だと繰り返し彼に伝えたが、全然大丈夫じゃなかった。










「37.6℃」

あははは…
頭混乱し過ぎて知恵熱とか、恥ずかし過ぎて笑える。

「微熱ね。最近、風邪流行ってるから、気をつけなきゃ駄目よ?」

「すみません」

「しばらく横になってなさい。授業に戻っても悪化するだけだから」

「はぁい」

そう言って先生はカーテンを閉める。



トントン。
誰かがドアを叩く。

高尾くん?
なんでここに…

ああそうか。
これは夢か、なんだそっかぁ。


「風邪だって、大丈夫?」

「うん、大丈夫」

高尾くんは優しいなぁ。

心配して見に来てくれたんだ。

「体育の時間に熱だして倒れたって聞いたけど、」

「大丈夫。ただの風邪だから」

そう言って笑えば、彼は安堵の笑みを浮かべる。

「手、冷たいね」

「外寒いから」

「そっかぁ」

彼の手を握り、自分の頬に当てる。

「気持ちいい?」

「…うん。ひんやりして気持ちいい」

高尾くんは優しいね。凄く優しい。

誰にでもそうなの?

本当に?
だったら嬉しいなぁ。


自分が何を聞いて何をしゃべってるのかよくわからなかった。

もっと色々喋りたいのに、頭がクラクラして、気持ちよくて、私はそのまま寝てしまった。

風に揺れるレースのカーテンのような
(優しい夢を私は見た)

(それが夢ではないと気づくのは、あと少し先の話)


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