彼女は本を読んでいた。
いつも一人でいるから、ひとりが好きなのかなって思った。
だから驚いた。
みょうじさんが、あの真ちゃんと仲よさげにしゃべってる。
しかも笑ってる。
「相変わらず面白いね、真太郎くん」
「失礼だな」
眉をしかめる真ちゃんに彼女は「褒めてるんだよ」と優しく微笑んだ。
その横顔に息を呑む。
それが一目惚れだと気づいたのは、随分と後になってからだった。
*
ここ最近、高尾くんに会う。
高尾くんというのは、私と同じ同級生。
緑間くん経由で知り合ったわけだけど、私は彼のことをよく知らない。
親しみやすい人だとは思う。
笑顔が優しくて、人懐っこくて、
知り合って間もないのに、話し掛けて来たり、お菓子をくれた。
優しい人だ。
この間なんか、図書の仕事を手伝ってくれた。
申し訳ない気持ちになりながらも、私は不思議で仕方なかった。
彼は何故こんなに優しくしてくれるのだろう。
いくら考えても答えは見つからなくて、私は彼に相談することにした。
「高尾?」
嫌そうな顔で彼の名前を呼ぶ。
「うん、高尾くんっていつもあんな感じ?」
「意味がわからん。高尾がどうかしたのか?」
「えっと…、誰にでもあんな感じなのかなって」
鈍いな、もう。
私はもどかしい気持ちになりながらも、説明を続ける。
「高尾くんって、誰にでも優しいのかなって」
…って、なんかこれって私が高尾くんのこと好きみたいじゃない?
顔が一気に熱くなる。
そうか、私は彼に惚れているのか。
「みょうじ?」
「あっ、いや。何でもない!」
「顔が赤いが」
「大丈夫!顔が赤いのは気のせいだから!」
何ともない。
大丈夫だと繰り返し彼に伝えたが、全然大丈夫じゃなかった。
「37.6℃」
あははは…
頭混乱し過ぎて知恵熱とか、恥ずかし過ぎて笑える。
「微熱ね。最近、風邪流行ってるから、気をつけなきゃ駄目よ?」
「すみません」
「しばらく横になってなさい。授業に戻っても悪化するだけだから」
「はぁい」
そう言って先生はカーテンを閉める。
トントン。
誰かがドアを叩く。
高尾くん?
なんでここに…
ああそうか。
これは夢か、なんだそっかぁ。
「風邪だって、大丈夫?」
「うん、大丈夫」
高尾くんは優しいなぁ。
心配して見に来てくれたんだ。
「体育の時間に熱だして倒れたって聞いたけど、」
「大丈夫。ただの風邪だから」
そう言って笑えば、彼は安堵の笑みを浮かべる。
「手、冷たいね」
「外寒いから」
「そっかぁ」
彼の手を握り、自分の頬に当てる。
「気持ちいい?」
「…うん。ひんやりして気持ちいい」
高尾くんは優しいね。凄く優しい。
誰にでもそうなの?
本当に?
だったら嬉しいなぁ。
自分が何を聞いて何をしゃべってるのかよくわからなかった。
もっと色々喋りたいのに、頭がクラクラして、気持ちよくて、私はそのまま寝てしまった。
風に揺れるレースのカーテンのような
(優しい夢を私は見た)
(それが夢ではないと気づくのは、あと少し先の話)