積み木みたいな部屋。
もしかして今吉は捨てられないオトコなのかもしれない。物も、記憶も、ぜんぶ。
「どっから見つけてきたんや、それ」
今吉は、私が抱えている卒業アルバムに気付くと、珍しく目に見えて狼狽えた。
古ぼけたちゃぶ台に、淹れたばかりの緑茶がこぼれた。湯のみには趣味を切り取ってきたような魚へんが並んでいた。
「ベッドの下でほこりかぶってたから、たまには呼吸させてあげようと思って」
「白々しい。そっと見て見ぬふりが礼儀っちゅーもんやろ」
今吉は定位置らしいへこんだ座布団にどん、とあぐらをかくと、私の手から卒業アルバムをひったくった。それはもう、苦々しげに。
「そんなに嫌なの?」
「普通、中坊の自分を好き好んでひとに見せるか?」
「ほんとに、それだけ?」
今吉は、当たり前や、と吐き捨てる。
「じゃあ、あんたの個人写真以外のページだけでも見せてよ」
それだけなんでしょ?と目で微笑めば、今吉はこれ以上の抵抗は逆効果と判断したのか、ちゃぶ台の上にアルバムを置いた。
「あ、いた」
そこは部活紹介のページだった。
バスケットボール部と書かれた写真のど真ん中に、今より少しだけ幼い今吉が肩を組んで笑っている。
隣には無愛想な少年がいた。眉が特徴的な少年だ。若かりし今吉は、彼の頭に人差し指をのぞかせている。
「中身は変わってないね。ぜんっぜん」
「ほんま? ありがと」
「言っとくけど全然褒めてないから。この、こんじょうわる」
次のページをめくりかけて、ばっと戻す。
鏡?
本当に一瞬、卒業アルバムにはそぐわないそれがよぎった気がした。
「何や? どしたん」
「ちょっと黙って」
写真に映る人間ひとりひとりに指を滑らせながら、私は今朝のセンセイの言葉を思い出していた。
『リサが僕の生徒でいられるのは、あとたったの5ヶ月なんだから、大事にすごさないと。ね? リサ......リサ?』
言葉も、涙も出なかった。
センセイが求めている私は私ではなかった。
女子高校生の私でなければ意味がないのだ、と気づいてしまった。
「このこ、マネージャー?」
「……ああ」
「やっぱり、あんたにとっても未来は過去の粗悪品でしかないんじゃない」
はっちゃける部員の片隅で、勿忘草のように佇むオリジナルの顔を、レプリカの私は人差し指で押しつぶす。
私によく似た顔の、私とは違う柔らかそうな黒髪の、楚々とした女の子だった。
視界が反転した。
蛍光灯と、今吉しか見えない。
「うそつき。うそつきうそつきっ!!
……4月なんて、永遠にこなきゃいいのに!」
今吉は何かを言ったようだったが、聞こえない。
ぷちり、ぷちり、と制服のボタンが外れていく音だけ、いやに鮮明だった。
私、卒業したらどうなるの?
ねぇ今吉。
リサを、見てよ。
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