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▼恋ってやつは


「あッ!」

場所をはばからず、大きな声で叫んだ佐久間の顔を、源田はやや凄みのある顔で見詰めた

「佐久間、」

神社の境内のど真ん中で、何て声を出すんだと、言うつもりだった
周りの人々がやや迷惑そうな顔をしている
しかし佐久間は「あの野郎」と呟いて心底悔しそうに前方を睨みつけている

「あれを見ろ源田!」

佐久間はびしいッと指を指す
その人差し指をガッと掴んで

「やたらに指を指すな、マナーが悪い」

と無理矢理ねじ曲げると、佐久間は泣きそうな声で

「とにかくあれ、見ろって!」

と叫んだ
仕方なく源田がその方向を見やれば、其処には見慣れた後ろ頭が髪の長い女子と並んで参拝の順番を待っていた

「あれは不動だな」
「あいつ彼女がいるなんて一言も」
「騒ぐ事でも無いだろう」
「ああッ」
「だから叫ぶな」
「あ、ああああれは久遠じゃないか…」
「久遠?」
「イナズマジャパンの久遠監督の娘だ、雷門に転入したと鬼道に聞いていたが…よもや不動と付き合っていたとは」
「別にいいだろう」
「良くない!何で不動なんだ何で不動には彼女が居て俺には…」
「……」

源田が溜め息をついた時、「あッ」と誰かが叫んだ
「おい止めろ」と連れがたしなめる声

似たような奴がいたものだ、と源田がちらりとその方向へ目をやると…

「見ろ風丸!あんな所に不動と久遠が!」
「指を指すな半田!」

風丸に人差し指を掴まれた半田が悔しそうに前方を睨みつけている

「ん?」

源田と佐久間を見つけた半田が、風丸を引っ張って人混みを掻き分けて来た

「よう!あけおめ!」
「明けましておめでとう」

源田の挨拶に風丸が「おめでとう」と返し、佐久間は「それどころじゃない」と真剣な顔つきになる

「佐久間お前も気付いたか」
「ああ」
「不動が久遠と付き合っているとはな、不動のくせに」
「ハゲのくせに」

ぶちぶち文句を言う佐久間と半田を横目に源田と風丸はげんなりした


しかしその瞬間、不動がふと、振り返り佐久間と半田、源田と風丸に気付いた

『お前に何で彼女がいるんだ!』

と顔全体で表現している佐久間と半田
勘の良い不動はそれに気付いたのか…

ニヤリと笑い、冬花をつついて後ろを振り返らせる

4人に気付いた冬花はぺこりとお辞儀をして更に手を振った

そんな冬花に、不動は何事かを言っている

「『あんな馬鹿どもに手なんか振るんじゃねーよ』
『だって不動君、挨拶しなきゃ』
『お前は俺だけ見てりゃいーんだよ』……とか何とか言ってるに決まってる!!ああくそ羨ましい!」

と一人芝居を始めた半田をぎろりと睨み、佐久間は言った

「羨ましく無い!俺は羨ましくなんか無い!彼女が居ると言う点においては不動に負けたかも知れんが…サッカーでは負けないぞ不動おお!」

いきり立った佐久間の脳天にげんこつを叩き込んで、源田は「叫ぶな…もう一度言う、叫ぶな、いいな」と首根っこを掴んだ

「半田もいい加減にしろよ…」

と風丸が額に青筋を作ると半田は怯えた表情になった

大人しくなった半田と佐久間、風丸と源田が再び前方へ目をやると…

これ見よがしに不動は冬花の肩を抱き、冬花の耳元に口元を寄せ何かを囁いた
すると冬花が赤くなって、不動の耳たぶを引っ張った

不動は痛みに耐え笑いしながら、ちら、と4人を眺めてくるりと前を向いた
そして頭を寄せて不動と冬花は楽しそうに会話している

「……」

そんな2人の様子を目の当たりにした4人は何となく気恥しそうに顔を見合わせた
流石の源田も顔を赤くし、風丸もゴホンと咳払いをする

「…………部活が始まったら不動だけ特別メニューにするか…」

ぽつりと源田が呟き佐久間は心底嬉しそうにうんうんと頷く

「たっぷりやってくれ」

と風丸

「俺達に見せつけた罰だ…」

と半田は前方に見える不動の後ろ頭を見据えた

「しかし、不動があんな楽しそうな顔するとはな…恋ってやつは不思議だな」

風丸がそう言うと、源田、佐久間、半田は同時に頷いた




「明王君きっと仕返しされるよ」
「そんなのちっとも怖くねーよ」

不動は冬花の肩を抱きながらニヤリと笑った






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