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▼胸が痛いぐらいに好きなんです


「っだよこの人は」
「仕方無いじゃない!お正月なんだし!」

初詣の参拝客でごった返す神社の境内で、春奈と木暮は参拝の順番を待っている

「ね、木暮君手繋ご」
「は?」

カッと赤くなる右隣の彼
途端にしどろもどろになる様子が、春奈には内心可笑しくて仕方が無い

遠距離恋愛中の春奈にとって、木暮のどんな反応も表情も愛しいものなのだ

「な、何でだよ」
「はぐれたら大変じゃない」
「け、携帯があるだろー」
「ケチ」
「ケチい?」
「久々に会った彼女と手、繋ぎたくないの?」

木暮はぐ、と言葉に詰まって、ごにょごにょと何か呟いているのだが、残念ながら聞こえ無い

それでも「ン」と手を差し出す木暮に満面の笑顔を見せて、春奈は嬉しそうに手を繋いだ

「へへ〜」
「何だよ気持ち悪い」
「今年はたくさん会えますように、ってお願いしようかな」
「ふーん」
「ふーんって…」

不満気に口を尖らせる春奈を横目に、木暮の口元が綻んでいる

丁度その時自分達の参拝の順番が来た

春奈が手を合わせたまま隣の木暮へと視線を向けると、手を合わせた木暮の真剣な横顔が見えて、思わず見とれてしまう…

頭を上げた木暮にハッとして慌てて参拝した春奈が、木暮の後に続きその場を離れようとした瞬間、間に割り込まれた





木暮の背中はあっと言う間に人集りに紛れて見えなくなった


やだ


春奈は必死に人を掻き分けて人集りから逃れようとする
しかしなかなか思い通りにいかない


木暮君


じわ、と涙が滲んだその時――


ガッ、と肩を掴まれた
そしてぐいぐいと人混みを掻き分けて進んで行く


木暮君…


凛々しく頼もしいその横顔に、春奈の心臓が跳ねる
それは痛みにも似た感覚


その感覚は苦しさとなって、春奈の胸から喉を駆け上がる

「お前何やって」

呆れ顔の木暮がギョッとした

「な、何、泣いてんだよ…」

春奈は木暮の胸元をぎゅっと掴んで、涙を零した

いきなり何だよ
と言いながら木暮は戸惑うが、春奈は服を握り締めたまま離れない


私、木暮君が好き
こんなに、好きなんだ



「な、泣くなよ…」
「……」
「はぐれても俺が絶対見つけるから」
「……!」

春奈が泣いている理由をちょっぴり勘違いしている木暮は必死で春奈を慰めようとしている

「…嬉しい」

春奈は木暮の言葉が嬉しくて、泣きながら微笑んだ

その笑みに、木暮が動きを止め、複雑な表情を見せ…

「お、音無…」
「木暮君…」


一瞬、木暮が春奈に顔を近付けかけてハッとした

そう、此処は神社の境内



じろじろと刺さる視線に「ひっ」と短い悲鳴を上げた木暮は、春奈の手を掴んで慌てて走り出す


「ケチ!」
「バッカやろ!あんなとこで出来るか!」
「しようとしたくせに!」
「うるせ―!」


赤い耳の木暮の後ろ姿を眺めながら、春奈は涙を拭い叫んだ

「木暮君大好き!」







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