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▼恋なんて馬鹿じゃなきゃできない


くだらねえ、と不動は声に出して呟いてみた

もう一度

「くだらね―…」

その言葉は空を漂って、虚しく、消えていく


この、自分を襲う気持ち
それは不動の意志に反して、決してくだらないものなんかじゃない、と言わんばかりに暴れ出そうとする


ハーフタイムが終わってフィールドに出た不動はちら、と目線だけを、其処、へ向ける

其処、には今の今まで自分の中でもがきにもがいていた気持ちの原因となるべき本人が後半戦が始まるのを待っていた

そのひとの視線が自分を捉えたのが分かって、不動は慌てて目を逸らそうとした
しかしこんな距離で視線がかち合った嬉しさが湧き上がる


もう、どうしようもない、かもな


そんな思いが頭を掠めた時、鬼道の叫び声が響いた

「不動!」

ハッと気付いた時には直ぐ其処にボールとそれを追う風丸が迫っていて、しまった、と不動は舌打ちをした









「大丈夫?」
「ああ」

跪いて、足首を冷やしてくれている冬花が心配そうに不動を見上げる

「私に見とれてたんでしょう」
「馬鹿言えよ」

悪態をつき、冬花を見下ろして、不動はふと溜め息をつく

「俺様が、…有り得ねーよな」
「何、それ」
「別に」

変なの、と笑う冬花の睫毛が、今の位置関係からだとよく見える

「でも酷い捻挫じゃなくて良かった」
「明日になれば良くなる」
「うん」

ひんやりとした冷たさが、不動の心から邪魔な感情を一切取り除いていく

「なあ」
「うん?」

アイシングを続けたまま、返事をする冬花に不動はぽつりと尋ねた

「さっき、何話してたんだよ……円堂と」
「え?」

冬花が不動を見上げて、不動は真っ直ぐ冬花を見詰めた

「…日本にいる雷門中の仲間達のこと、みんないいヤツだ、って」
「…あ、そ」

ちょっと拍子抜け

「妬いた?」
「だから、有り得ねーって」
「…そのこと、か」

ふふ、と笑う冬花に不動がうるせえ、と呟く

恋なんてガラじゃないって思ってたし、好きだの何だの言うヤツらは馬鹿だと思ってた


でも


くだらない、とか、有り得ない、とか、言葉で誤魔化してみたってそれは全然無駄なことで


心は勝手に


こいつが他のヤツと楽しそうに会話してるだけで暴れ出すし
ちょっと目が合っただけでもうなんかどうすっかなとか、浮かれてるし


だからもう、どうしようもないんだ

俺はきっともう見下してたヤツらとおんなじように、馬鹿になったんだ




は―…と大きく息を吐いた不動を冬花が見詰め、不思議そうな顔をする

「冬花」
「え?」
「あんまり妬かせんな」
「……!」
「ただでさえ」

心底惚れちまってるんだからよ

そう、冬花の耳元で囁いた不動は、真っ赤になったその顔を眺めながら思った


こんな事言えるんだから
恋なんて馬鹿じゃなきゃできねーよな





「恋なんて馬鹿じゃなきゃできない」
by確かに恋だった







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