▼実はまだ伝えていないけど
「ほう……不動お前…それは嫌いだから残しているのか?それとも好きなものは最後に食べる習慣か?」
気が付けば、いつの間にかに鬼道が自分の目の前に座っていて、不動は思わず口に入れようとしていたハンバーグの欠片を落としそうになった
「お前いつの間に…」
「しかしお前きちんと噛んでいるのか?一度につき30回は噛まないとな」
「そんなのんびり食ってられるかよ」
「久遠に同じ事を言われたら、素直に聞き入れるんだろう?」
「ゴホッゴホッ…ゴホッゴホッ」
「何だ不動お前でも動揺するのか、面白いな」
「ッ…てめえ!」
真っ赤になった不動が凄むが、鬼道は鼻で笑った
「茹でダコのようなお前に凄まれても何も感じないぞ」
「ち、畜生…」
不動は鬼道を無視する事に決め込み、ガツガツと猛然とスピードを出して食べ始めた
「喉に詰まるぞ」
「ウッ!」
「それ見た事か」
背中を誰かがとんとんと叩く
そして別の誰かが差し出した水を受け取って飲み干した
「さ…サンキュー」
「いいえどうって事無いですよ!」
自分に水を差し出したのが鬼道の妹だと知って目を見開く不動
そんな不動を余所に、春奈は鬼道の隣に座る
不動は今しがた背中を叩いてくれた人物にも礼を言おうと振り返った
「明王くん大丈夫?」
其処に居たのは不動がこんな状況に陥った原因とも言える冬花だった
「だい…大丈夫だよ」
ふてくされたように呟く不動
何だか格好悪い所を見られちまった
不動は羞恥心を隠すようにぷいと前を向くともう一度水を呷るように飲んだ
「そう言えば、冬花さんと不動さんはいつからお付き合いしているんですか?」
「グハッゴホッゴホッ…ゲホ!」
ち、畜生鬼道の妹のヤツいきなり何を言いやがる!
「流石は俺の妹だな、聞きにくい事をズバリと聞くな」
「そーかな」
畜生この兄妹は…ッ
咳き込む不動の背中を叩きながら冬花が「秘密よ」と笑った
「お、…ッおい!」
「何?」
不動の隣の椅子に座りながら、にっこりと冬花が微笑む
何の疑いも持っていない可愛らしいその瞳に、不動はうっ、と何も言えなくなる
動揺をひた隠しにしながら、ぐるぐると考えを巡らす不動は絞り出すように一言…
「よ、余計な事喋んなよ」
「うん」
「きゃあああ、何だか亭主関白って感じ」
「いや、そう見えて尻に敷かれるタイプなんだコイツは」
「それはお兄ちゃんだってそうだよ」
「何、俺が不動ごときと同じだと言うのか春奈、それは聞き捨てならんな…」
聞き捨てならねーのはこっちだ、言いたい放題言いやがって…
「で、不動それは嫌いなのか、それとも大好物は後から食べる主義なのか?」
「これは食うんだよ!一番最後にだ!」
「ほう、不動がそう言う食べ方をするとは驚きだな?春奈」
「ほんと意外!」
「俺は一番最初だ」
「私も!あ、夏未さんもそうだって言ってた」
「そうだろう、流石は俺の」
「俺の何よ」
「いや何でもない」
「おめーらうるせえな!さっさと食えよ!」
「フン、俺様はお前と違って食べるのは早いのだ」
「私も!」
その言葉通り、不動より先に食事を終えた鬼道兄妹は一緒に席を離れて行った
「ったく訳分かんねー奴らだな」
「楽しいじゃない?」
「楽しくねーよ」
不動はそう言うと最後まで残しておいたポテトを食べ始める
「私も、ポテト好き」
自分の隣で同じようにポテトを残しながら食事をする冬花を、ちらりとも見ずに不動はぼそりと呟いた
「…そのうち、ちゃんと言ってやるよ」
「…うん」
嬉しそうな声色
不動は思わず口元を緩めながら、最後のポテトを口に放り込んだ
好きって必ず言うから
その時まで待ってろよな