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▼もっと早く知っていれば良かった


「ごめんね、待った?」

待ち合わせ場所に現れた冬花は、腕組みをしている青年に声を掛ける

「申し送りが長引いちゃって…」
「別にたいして待ってねーよ」

冬花はその人の腕にするりと自分の腕を絡めた

「飯にはまだ時間早いし…どーする?」
「ゲームセンター行きたい」
「はあ?」
「やだ明王君変な声」

冬花はくすくす笑って、おかしな声の主…不動明王を見詰めた

「お前が珍しい事言うからだろ?」

ぶつぶつ言いながら、不動は歩き始める

「仕事で何かあったのかよ」
「明王君に言う程の事でも無いよ」

そう言って冬花は柔らかく笑う
そんな時、不動は何も聞かない事にしている
話したければ、自分から話すだろうし…根掘り葉掘り聞かれるのは自分も嫌いだからだ

「…ごめんね、なかなか会えなくて」
「気にすんな、そういう仕事だ」
「…うん」

冬花は何かを考えている様な表情で歩いている
そしてぴたりと足を止めて、不動を見た

「何だ?」
「やっぱりゲームセンターは止めて、買い物して明王君の部屋にいこ」
「は?」
「ご飯作って、一緒に食べよ?明王君とのんびりしたいな」
「俺は構わねーけど…監督どうすんだよ」
「お父さん?」
「飯とか」
「お父さんは大丈夫よ、今日は明王君と会うって言ってあるから」
「エッ…」
「じゃ、買い物行こう」

冬花は途端に元気になって明るい表情を見せ、不動の腕を引っ張った
不動は苦笑いを浮かべ「マジかよ…」と密かに呟いた
冬花と付き合っている事を久遠監督は知らないと思っていたからだ

不動が黙っていると、冬花が不思議そうな顔をして尋ねた

「あれ?言ってなかった?」
「初耳」
「え、そうだった?話したと思うけどな…お付き合い始めた時からもうずっとよ」
「エッ…!!」

思わず立ち止まった不動を見て、冬花は少しばかり呆れた顔をしている

「ちゃんと話したよ、もう…明王君、人の話聞いてくれないと困るよ」
「わ、悪い…」

複雑な表情の不動を眺め、冬花は言った

「不動ならいいだろう」
「は?」
「そう、言ってたよお父さん」
「………」

俄に、顔が熱くなった


「…で、何食べたい?」
「……何なら俺が作ってやってもいーぜ」
「えっ本当?」
「ああ」

はしゃぐ冬花を横目に、不動も何だか幸せな気分になって行く
そっと冬花の組んでいた腕を外し、手を繋ぐと

「腕によりをかけてやるぜ」

と言いながらスーパーへと向かうのだった







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