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▼それはあまりにも衝撃的な展開で


「雷門じゃないか」

ホテルの玄関で、夏未は鬼道と鉢合わせた
ゴーグルを外して正装した鬼道は、学校で見る姿とは全然違う印象だった

「あら、どうしたの?」
「今日は義父と会食の予定なんだ…」
「私もなのよ、偶然ね」

これから何処ぞの御曹司と会う、などと言う必要は無い
総一郎は仕事の都合で直接こちらに向かうと連絡があり、夏未は場寅に送られて少し早く到着していたのだ

「お父様はもういらっしゃっているの?」
「いや、まだだと思う…仕事で直接こちらに向かうと連絡があったから」
「そう…私もなの」

何となく2人は笑い合って、エレベーターホールへと向かう
このホテルには懐石料理とフランス料理など様々な店が入っていて、そのどれかへ行くのだろうと夏未は思っていた
しかし同じ階でエレベーターを降りた鬼道を見詰め、夏未にある疑念が芽生えた

「ね、待ち合わせって…其処かしら」

懐石料理店の入口を指して夏未が鬼道を見ると、鬼道は俄に緊張した顔付きになって、ぎこちなく頷いた

「まさか」

そう呟いた鬼道の顔を見詰め、夏未も

「まさかね」

と言葉にして、胸に湧いた疑念を振り払った









「どういう……ッことですか?????」

夏未が呆然とするその目の前で、鬼道が既に到着していた父親に詰め寄っていた

「雷門が…ッ、いやッ…雷門さんが相手だとは聞いて…」
「しつこく聞かなかったのはお前だろう?有人?」

鬼道氏は「してやったり」と言う顔で息子の反応を楽しみながらにこにこと笑っている
総一郎も夏未にむかって「驚いたろう!」とはしゃいだ声を出したものだから、ようやく保たれていた夏未の冷静さが吹っ飛んだ

「お…ッお父様!!!」
「ふっふっふ…サプライズは成功しましたよ、鬼道さん!」
「その通りですな雷門さん!!有人があんな顔をするとは、意外だよ雷門さん」
「良い反応じゃないか、たまには子供らしい一面も見せて貰わないと面白くないよ、鬼道さん…」
「だってお父様あの時…」
「ああ言えば夏未が相手を聞かないことも計算済みさ…」

フフフフと笑う父に夏未は呆然とするばかり

「まあ、そう言うことだよ、2人共」

鬼道氏が2人に向かってにっこりと笑い、ようやく2人はこの席が設けられた目的を思い出し、赤面した

「だって、そんな…ッ私達同級生で、クラスメイトなのよ!しかも同じ部活で」
「そう!!!其処なんだヨ!」

総一郎は鼻息荒く声を上げ、鬼道氏も大きく頷いた

「これ以上は無い良縁だろう?」
「全くですな、雷門さん…有人にはそれ相応の相手をと思っていましたが、こんな近くにこんな素晴らしいお嬢さんがいらっしゃったとは、迂闊でしたよハハハハハハ!!」

声を上げて高らかに笑う義父の姿を呆然と鬼道は見詰めている

「鬼道君なら、私も人柄を良く知っているし、サッカーでも司令塔と言うポジションで大活躍、友人にも恵まれ成績優秀!何処を探してもこれ以上の逸材は存在しないよ?おまけにイケメンじゃないか!!」
「イケ…」

父の言葉に言葉が出て来ない

「見ず知らずの相手より、よっぽどいいじゃないか」
「その通り!勿論…これは選択肢のひとつとして考えて貰って結構なんだよ?夏未さん?」

ハッとしてそちらを見れば、鬼道氏が優しい眼差しで自分を見詰めている

「鬼道君、いや、有人君も、そう思って貰って構わないさ…ただ、きっと夏未は最高の伴侶に成ると思うよ」
「は、伴侶??」

ボンッと発火するかのような勢いで、鬼道が顔を赤くして、夏未も慌てた

「やめてお父様!!!」
「ハイハイ、仕方ない…では食事にしようかな?」
「そうですな、雷門さん、では2人共席につきたまえ」
「……」
「……」

棒立ちの2人はお互いに顔を見合わせる、そしてさっ、と顔を逸らした

「おや?もしかして夕食の前に2人で話でもするかね?このホテルの最上階は素晴らしい夜景が見られるぞ?!」
「い、いいいいいいえ結構です」
「そ、そうよ、食事にして!!」

興奮冷めやらぬ様子で笑顔を振りまくお互いの親を見詰め、鬼道と夏未は密かに溜息をつき…思いがけない事の成り行きに不安を抱くのだった









脱力してベッドに倒れ込んだ夏未は目を閉じた



「今日はご馳走様でした、次回は…」

次回、と言う言葉に反応して夏未は視線を父に向ける
すると同じく反応していた鬼道と目が合った

2人は食事中も、父親達を介してしか殆ど話をしていない
父親達は照れているのだね、と笑っていたが、こんな状況で話など出来る筈が無かった

「………」

目が合ってさえ尚、言葉を発する事が出来ずに夏未と鬼道はお互いにそっと目線を逸らしたのだった



明日からどんな顔をして鬼道君に会えばいいのかしら…


憂鬱な気分で夏未はシーツを握り締める
土曜日の明日は午前中部活である為、鬼道とも顔を合わせなければいけない


不安だわ…どう接すればいいのかしら
でも、そうよ、音無さんや木野さん、冬花さんがいるもの
私が特別に鬼道くんの世話をやかなければならない、なんてことは無いわよね?
まだ正式に婚約したと言う訳でも無いんですもの!!


は、っと気付いて、夏未は顔を赤らめた


馬鹿みたい…何を考えているのかしら
きっと鬼道君だって戸惑っているわよね


はあ…と溜息を吐き、夏未はぐるりと寝返りをして天井を見詰めた

「お父様も…人が悪いわ」

わざわざグラウンドまで来て告げた理由はそれだったのだ
きっとフィールドを走る鬼道を見ていたに違いない

『私はいつだって夏未の幸せを願っているんだよ』

その言葉が、今の夏未にはひどく重荷に感じられた


むしろ、見ず知らずの相手の方が、自分の役割をきちんと全う出来たのに


ふとそう思って、夏未は唇を噛んだ
今まで感じたことの無いものが、胸の奥にくすぶっている
その感情をどんな言葉で表せばいいのか、夏未には全く分からなかった


でも、普通に接すればいいわ
今まで通りに接すればいいのよ


夏未はそう決意して、ぎゅう、とシーツを握り締めた




深い溜息を付いて、鬼道はベッドに腰掛けた
あの時、もっとちゃんと考えれば良かった…
玄関で雷門に会った時に、気付くべきだったのだ


思わず頭を抱えた鬼道には、新たな問題が目の前に迫っている


明日、…顔を合わさないといけないのか…


フ――――…とやや眺めの溜息を付き、鬼道は床を見詰めた
胸の奥に、ぐるぐると何かが渦巻いている


不安、なのか、俺は


顔を合わせて何を話す?
今まで通りに接する事が出来るのか?
……俺は今までどのように雷門に接していたんだ??どんな顔をして?
ああ!でもゴーグルがあるから少し安心だ!!!


とゴーグルの本来の目的以外の新たな使い道を見つけた鬼道は思わず小踊りしたくなった

しかし直ぐ様そんな自分に赤面し、心から恥ずかしく思った


これが見ず知らずの相手なら、もっと簡単だったろうに
そうすれば、俺は難なく、鬼道財閥の子息としての役割を果たせるものを


「……」

大丈夫だ、何を不安になる事がある
急な展開に戸惑っているだけだ
明日になれば、大丈夫な筈だ…いつも通り出来るさ


そう思いながら鬼道はベッドに寝転んで、再び溜息を付いた








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