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▼それは思いがけない言葉、こんなにも心が揺れるなんて


「新しく加入した1年生との連携が実戦で通用するか見たいし、一度練習試合を組むのも手かと思うんだけど」
「そうだな、それもいい」
「円堂、1年のキーパー候補はどんな感じなんだ」
「なかなか良い線行ってるんだ、更に特訓をすればかなり良い感じだぜ」
「DFにも動きの良いヤツがいるし、いっそのこと一年だけ出してもいいかも知れないぞ」
「それは面白いな、FWは虎丸が引っ張ってくれるだろうし、…」
「鬼道の後を継げるような司令塔はいるのか」
「ふふ、まあ見ていろ」

夏未、鬼道、風丸、円堂、豪炎寺、が集まっている所へ半田やマックスが寄って来る

「何の話?」
「近いうちに練習試合をやろうかと言う話なの」
「マジ?やった!!」
「相手は何処?」
「帝国…かしらね、やっぱり」
「帝国だろ?帝国!!!」

円堂がはしゃぐ横で風丸や豪炎寺も頷いて気合の入った表情を鬼道に向ける

「そうね…帝国にも良い1年生が入っているようだから」
「誰の情報?」

半田の不思議そうな表情に、夏未が

「目金君よ」

と答えると

「あ、なるほどね」

とようやく納得入った顔付きになる

「では、円堂君と鬼道君で監督に申し出て、了承を得られれば…」

夏未は手帳を取り出しカレンダーを確認する
その横で鬼道が口を開いた

「帝国との調整もあるから早めに連絡を入れた方がいいだろう、試合の申し込みは監督から?」
「いえ、それは私が理事長代理として帝国の監督に申し込んでおくわ、鬼道君はあらかじめ源田君に連絡して帝国の行事予定を教えて貰って欲しいの…テスト期間と被らないようにしなければね」
「了解した」

きびきびとやりとりする鬼道と夏未を見て、半田が嬉しそうにはしゃいだ声を上げた

「なーんか、鬼道と雷門息ピッタリだな!」
「………………」

鬼道と夏未が一瞬動きを止めて、半田を見詰める
鬼道の眉がぴくりと動いた事に気付いたマックスが、ガツンと半田の尻を蹴飛ばしたものだから、半田は飛び上がって喚いた

「いって!!いてえよ!」
「からかうのはよせよ、半田」

その場を収めようと風丸がそう言うと、夏未はまるで何でも無かったかのように話を続けた

「じゃあ…あとは鬼道くんと私で詰めるけど、円堂くんも一緒に?」
「難しい事は鬼道に任せる!!俺は練習練習!!」
「じゃあ、宜しくね…鬼道くんちょっといいかしら」
「ン」

マントを靡かせてその場を去る鬼道と、夏未の後ろ姿を眺めながら、半田は蹴られた尻を撫でながらマックスを睨んだ

「蹴ること無いだろ〜」
「嬉しそうにはしゃいでるからだ」
「前の鬼道の話忘れたのか?」
「忘れた訳じゃないけど、ほんとに良い感じじゃないか?…それになんかちょっと反応変だったろ」
「変って何だよ」

風丸が首を傾げると、半田はチッチッチと人差し指を自分の顔の前で左右に振った

「さっき俺が『息ピッタリ』って言った時、普通ならさ…」

『な、何言ってるの半田君、からかうのもいい加減にして頂戴』
『余計な事を言って話を掻き混ぜるんじゃない半田…相変わらず空気を読まないヤツだな』

「ぐらいは言いそうなもんじゃん!!」
「お前良く観察してるな!!」

風丸が呆れると、マックスも笑った

「いちいちかまってられないって事だろ〜もう慣れっこなんだよ、お前の軽口には」
「そうかな〜」
「そんな事よりも半田、練習試合に向けて気合を入れないと1年生に負けるぞ」

豪炎寺にさらりと言われて、半田は慌てて「えッ」と青くなった







「何なのよ…半田君のあれは!!!」

理事長室で真っ赤な顔で睨む夏未に迫られて、鬼道は思わず顔を逸らした

「別に、それは、いつもの半田の…か、軽口だろうが」


そういえば半田のヤツ、俺と雷門が付き合えばいいとかなんとか...言っていたようだな、とふと思い出す鬼道

鬼道の口元がやや引きつっているのを見逃さない夏未が「本当にそれだけなの?怪しいわ!!」と詰め寄ると仕方なく鬼道が口を割った

「まあその...俺達がこういう状態になる前だぞ?半田の勝手な妄想だがな!?雷門と俺が付き合ったらいいだとか何とか言ったことがあるらしいんだ」
「いやらしいわね…そんな話をして!!!」
「何故そうなるんだ?いやらしいって何だそれは!!」
「知らない所で人の噂話をして…全くいやらしいわよ!!」

ぐうの音も出ない鬼道は何とか夏未の機嫌が良くなる方向へ話を持って行こうと話題を探すが上手い話が思い当たらない…

「でも、俺と雷門は付き合うことは無いと言ってやった、その時はな」

鬼道がそう言うと、夏未の怒りがしゅん、と収まった
しかし…

「…………そう、そうよね、私なんて問題外って事でしょうとも」
「ちッ、違う!な、何を言ってるんだ違う、理由は家のことだ、分かるだろう?」
「……ぁ」

小さく声を上げてから、夏未は酷く後悔した
頭に血が登って何と愚かな事を口走ってしまったのだろうか

かあああ…と頬を染めて夏未は俯いた


馬鹿みたい馬鹿みたい馬鹿みたい馬鹿みたい
わたし、何を言ってしまったのかしら
そうよ、私だって好きな人とは同じ道は歩けないって思っていたじゃないの
鬼道くんだって私と同じだと、…私知っていたのに…


急速に頭が冷えて、夏未は冷静さを取り戻してゆく


だから半田君達に対して、鬼道くんの答えは正しいわ
私が聞かれても、きっと同じように答えた筈だもの


「………ごめんなさい」
「…ぇ」
「感情のままに怒ったりして、恥ずかしいわ…ごめんなさい…」
「い、いや」

驚く鬼道を他所に、夏未はふう〜と息を吐く


「鬼道くんで良かったかも知れない」
「え?」
「飾らなくて、済むもの…自分を」
「……自分を…?」
「サッカー部のみんなはね、私にとって宝物だから…私を私で見てくれる、どんな私にも幻滅しないで、仲間でいてくれる、宝物だから…だからわた」

はッとした夏未が鬼道を見ると、鬼道はじり、じり、と後ずさって行く
真っ赤な顔で…

「あ、ああああああああの今の、わたしッ」

ストップ!とでも言うように、自分の前方に手のひらをかざし、鬼道は夏未の言葉を封じた
唇を噛んで笑っているような困っているような非常におかしな顔で、鬼道はじりじりと後ずさって行く

どん、とドアにぶち当たると、鬼道はこくり、と挨拶代わりに頷き、バン!と素早く理事長室を出て行ってしまった

へなへなと、夏未は床に崩れ落ちる…


よ、良かった
何も言ってくれなくて、本当に良かった…
私、わたしなんて事をまた言ってしまったのかしら!!
あれじゃ、あれじゃ…鬼道くんと婚約できて良かったって…言ってしまったようなものじゃないの!!!
自分から何てはしたない…っ
いいえ違う!違うわ!!別に私はそういう意味で、……違う?……本当に、違う???
…この間だって私、あの鬼道くんの言葉


嫌じゃ、なかッ…………



「…?!…!!!…!!!!」

真っ赤になった夏未は思わず顔を両手で覆った








ふと見れば、鬼道が物凄い勢いで自分に向かって突進して来ていた
息を呑んだ豪炎寺がその場からあっと言う間に居なくなったことに誰も気付かなかったと言う

目立たない校舎裏に連れて来られた豪炎寺が息を弾ませて鬼道を見れば、壁に両手をついた鬼道が壁に向かって満面の笑みを浮かべていて思わず声を上げる所だった

「どうッ、…ッしたんだ鬼道!!??」
「分からない!!!」
「はッ?」
「俺は自分が分からない!!これは、何だ!!この感情は…畜生勝手に顔が緩む!!!」

うわああと頭を抱える鬼道が尚も声を上げる

「顔が勝手に笑う…!何とかしてくれ豪炎寺!!」
「顔が勝手に??マヒか?だったら父さんに連絡を…いや、先に原因を…」

原因、と聞いた鬼道が俄に正気に戻り、表情が引き締まった
そして豪炎寺を見て「しまった」と言う顔付きになったのを豪炎寺は見逃さなかった

「よほど動転したと見える」
「…………まあ、そうだな」

ハハ、と青い顔で目を逸らす鬼道の顔面を無理矢理自分に向けて、豪炎寺はさあ白状しろと言わんばかりの眼光を突き刺した


「実は…その…」



その時、バサバサと鳥が飛び立ち…
その後には豪炎寺の今まで見たことのないような、驚愕の表情が其処に在った

「言うなよ」
「わ、分かっている…状況は分かった、で、肝心の動転した原因は何だ」
「言いたくない」
「……」

しかしその拍子に思い出したのだろう、鬼道の顔がふにゃ、と緩んだ

「……鬼道お前…大丈夫か」
「大丈夫だ…大丈夫な筈だ…くそ、負けてたまるか…」

両手で頬を持ち上げながら必死な形相を見せる鬼道

「何と戦っているんだ、お前雷」
「その名を今口にしないでくれ!」

真っ赤になった鬼道が耳を塞ぎ呪文のようにブツブツと唱え始めた

「帝国と試合帝国と試合帝国と試合帝国と試合…」

その姿を眺めながら、不謹慎ながらちょっと面白い、と豪炎寺は思う

あの鬼道が、こんな風に感情豊かな姿を限定的ではあるが人前で晒すなんて

そんな事を思いながら、豪炎寺は鬼道に知られないように微笑んだ










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