▼拍手文17 倉茜
「へんな顔」
茜の言葉に倉間ははっと我に返った
「いちごみたい」
要するに顔が赤いことを揶揄しているのだが、今の倉間には「それを言うならトマトだろ」とか何とかツッコミを入れる余裕は皆無だった
部活を終えて浜野や速水と別れ、本日のバレンタインと言うイベントでサッカー部のマネージャーに貰ったチョコのことをふと思い出した時であった
『倉間くん』
『あれ、山菜?お前こっちだったか?家』
『んーん、倉間くんの後をつけてたの、ふふ、探偵みたいでしょ』
?マークで脳内を一杯にした倉間の目の前で、茜はごそごそと鞄をあさり、綺麗に包装された小さな箱を取り出した
『じゃーん』
にっこりと笑った茜は両手でそれを倉間に差し出した
『はい!バレンタインおめでとう』
『…』
『反応うすーい』
『何だよバレンタインおめでとうって…相変わらず変なヤツだな』
『倉間くんは嬉しくないの?』
『は?』
『わたしの、気持ち』
改めて、倉間は目の前に差し出されたチョコを見詰めた
今更ながらバレンタインにチョコを贈ることの意味が倉間の頭の中で図式化される
「へんな顔」
茜の言葉に倉間ははっと我に返った
「いちごみたい」
「ううう、うるせーな」
倉間は茜のチョコをさっと受け取る
「あ、受け取ってくれた」
「何だよ…」
「受け取ってくれないかと思った」
茜の言葉に倉間は小さく呟いた
「んな訳ねーじゃん」
ほ、と白い息を吐くと、倉間は一歩茜に近付いた
「ありがとう」
「…うん」
「なんか悪いな」
「え?」
「ビビってもたついてたから、俺が」
「…!」
茜は嬉しそうに笑い、ゆっくりと首を振る
「わたしがね、我慢できなくなっちゃっただけなの」
「え?」
「誰かに盗られたら、嫌だから」
茜の言葉に、倉間の熱かった顔が益々熱くなった
「へんな顔」
「う、う、うるせー!」
「りんごみたーい!」
「トマトだろ!」
乱暴に、茜の手を取った倉間に茜が微笑んだ
「やっぱりバレンタインおめでとう、でしょ?」
「?」
「わたしたちの、記念日」
柔らかい茜の細い指の感触
「行くぞ、送ってく」
「うん」
まだ言葉に出来ない自分の感情が伝わるように、倉間はしっかりと茜の手を繋いだ