▼拍手文15 倉茜


秋も深まり、夕方ともなると冷たい風が身体を冷やす今日
倉間は信じられないぐらいの顔の火照りと熱気をその身体から放出していた

「倉間くん?」
「……」
「倉間くんてば」
「……はッ?」
「もう、ずっと無言」
「わ、わり…」

顔の火照りと身体の熱気の原因へ、倉間はそろそろと目をやる

思わず、その感触すら偽物なんじゃないかと思ってしまう
だがしかしそれは現実


「や、山菜の手は冷てーな」
「よく言われる」
「よく?」
「女の子同士で、手が冷たいとかあったかいとか…男の子に言われるんじゃないから、大丈夫」


なんか、格好わりーな…


手を、繋いだだけでこんなに照れて緊張してるくせに
そういう独占欲だけは一人前で


「倉間くんって、初めて?」
「なにが」
「手…繋ぐの」
「好きなヤツと繋ぐのはな」
「……私も」

嬉しそうにはにかむ茜の手に僅かに力がこもったのが伝わって来て、倉間の顔がまた熱を帯びて来る


でも、出来ることなら


倉間は自分よりも高い位置にある、茜の横顔をそっと見詰める
その眺めがいつか、隣の彼女を見下ろすものに変わるのが倉間の密かな願望でもある


この差が早く縮まるといいのに


そんな事を思った刹那、茜がふと、倉間の手を見詰めた
そして

「やっぱり、倉間くんの手の方が大きいんだね」
「…え?」
「ほら」

茜が繋いでいた手を放し、倉間の手の平と自分の手の平とを合わせる

「……」
「やっぱり、男の子、なんだ」
「どーいう意味だよ」

眉を寄せてそっぽを向く倉間の口元に、一瞬、密かに笑みが浮かんだ

「行くぞ」
「うん♪」

そして茜の手を再び繋ぎ直すと今度はしっかりと指を絡めた



彼女の一言は絶大な効果を与えてくれる
それが例え

たった一言でも







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