▼拍手文14 豪秋
その生足は反則だろう
と声になりそうな言葉を飲み込んで、俺はじっと耐えた
鬼道家のプライベートビーチにサッカー部全員で来たのはいいが、俺は木野の水着姿が他の連中の目前にさらされる事実を今の今まですっかり忘れていた
いつもスカートから見えているすらりとした脚が、水着姿となって更に露わになっている
ああ畜生初めて見たその姿が俺だけじゃなく他の男の視界に入るなんて許せない
「全く同感だ」
ぎょっとして声のした方を見れば鬼道がゴーグルを額にズリ上げながら、はしゃぐ半田や栗松を睨みつけている
「意外そうな顔をするな、お前の考えはだだ漏れだぞ」
「そうか、うっかりしてしまったな」
「うっかり所じゃないぞ豪炎寺、気をつけないと相当な変態だ」
「そうだな気をつける」
「しかし俺も迂闊だった、かなり浮かれてしまってな…事の重大さにあの姿を見て初めて気付いたのだ」
ふう、と溜め息をついて鬼道は腕を組んだ
「ゴーグルからビームでも出れば邪魔なヤツらを一掃出来るものを」
大きく肩を落とした鬼道が更に嘆く
「本当は2人で来られたら良かったのに…と言うかなんで思いつかなかったのか俺とした事が夏休みの貴重な時間を物凄く無駄にしたような気さえする」
「嘆くな鬼道、これから取り戻せばいいさ…」
「そうか、そうだな…有り難う豪炎寺、さっきは変態だなんて言ってすまなかった」
「いいんだ鬼道、しかしそのゴーグルは水陸両用なのか」
「そうだ、万能ゴーグルなのだ」
「流石影山仕様だな」
「まあな」
俺と鬼道がそんな話をしていると、木野がきゃあ、と声を上げた
「とッ…虎丸のヤツ木野に無邪気なフリをして水を掛けまくりやがって許せん!!」
「熱い!砂も熱いがお前も熱いぞ落ち着け!」
「落ち着いていられるか!あれを見ろ鬼道ッ!」
「はッ、半田のヤツ…ッ調子に乗りやがって…」
俺と鬼道がだんッと一歩踏み出した時
「あ、豪炎寺く〜ん早く!」
「鬼道くんも何してるの?」
キラキラと水を滴らせた木野と雷門が手を振り、一瞬にして俺達の怒りは、熱いアスファルトに零した少しばかりの水のように蒸発した
「夏未さんがね、恐いから鬼道くんとじゃないと海の中に入らないって」
「え」
「やだ木野さんだって!」
「あはは」
先程まで刺さりそうだった鬼道のオーラがポワポワとしたものに変わっている
手を繋いで一緒に海に足を進める鬼道と雷門を、周りの部員達が実に羨ましそうに眺めている
「絶対、絶対手を離さないでね、絶対よ?」
「分かってるって」
雷門が可愛くって可愛くって仕方ないと言う顔で、鬼道はにやけて、じゃない幸せそうな笑みを見せている
「豪炎寺くん、私達もいこ?」
ああ何て木野は可愛いんだろうか
「きゃっ」
痛いほど感じるみんなの視線が逆に気持ち良いぐらいだ!俺の木野は俺だけの木野なんだと見せつけてやるぜ…
俺は木野を抱き上げて、ゆっくり海の中へと入っていく
「やだ、やだ豪炎寺くん、海に放り投げたりしないよね?」
「そんなことする訳ないだろう?」
ふと見れば、鬼道が「やるな豪炎寺」と言いたげな顔で此方を見ていた
「絶対だよ?絶対!」
そう言いながら俺にしがみつく木野が言葉に出来ないほど可愛くて大好きで、思わずその柔らかい頬に口付けた
「ご」
「木野も、」
顔を赤くした木野が「だめ」と目を伏せる
「砂浜からは俺の背中しか見えないから大丈夫」
「……ほんと、かなぁ…」
そろそろと、木野の可愛らしい唇が俺の頬に近付いて来る
不意を付いてその唇を自分の唇で塞いでしまいたい
そんな願望と闘う俺の頬に、柔らかな唇の感触
そして目の前には恥じらった木野の表情
今日はこれで満足しよう、と改めて思った時、半田の叫び声が後ろから聞こえて来た
「そこォイチャイチャするなあ!!」
「やだ見えてるじゃない、豪炎寺くんたら嘘つき…ッ」
そう小さく叫んだ木野はやっぱり可愛いくて、ずっとこのままで居たいぐらいだと本気で思った