▼拍手文9 鬼夏
鬼道の様子がおかしい事に夏未は気付いていた
絶対何か企んでいるに違いないと、考えを巡らせる
今度と言う今度は絶対阻止しなければ
薬の副作用のお陰で秋の膝枕をゲットした豪炎寺が相当に羨ましい鬼道は、何とか理由をつけて夏未に膝枕をして貰おうと必死で考えを巡らせている
未だにすやすやと秋の膝の上で寝入っている豪炎寺をちら、と見て、自分の傍に立っている夏未へと視線を移す
あいつ良く寝てるな
本当は目が覚めてて寝たフリしてるんじゃないのか…
まあいい…
いい理由が浮かばないが、此処は仕方ない
見切り発車だが、いつものように言い負かしてしまえばこっちのものだ
「夏「駄目よ」」
「おい「絶対に嫌」」
「何を「貴方の考えている事は手に取る様に分かるわ」」
「少し「絶対に駄目です」」
「話を「さっきからそわそわして…貴方はどうしてそう豪炎寺君と張り合おうとするの?」」
「張り「豪炎寺君は薬の副作用でああなってしまったのだから仕方のない事だわ…それを」
鬼道に話をする隙を与えずに夏未は、はあ…と溜め息を付いた
そしてやや呆れたような眼差しで鬼道を見詰める
しれっとしたその顔の何と小憎らしいことか
「何故分かった」
「貴方の考える事なんてお見通しよ」
「膝枕してくれないのか」
カッ、と夏未の顔が赤くなったのは恥じらいなどでは無かった
眉を釣り上げ両手を握り締めた夏未は鬼道を睨みつけ、殆ど口を動かさないで言葉を発した
「当たり前でしょう…」
低いその声に、流石の鬼道も、夏未が爆発寸前だと言う事を理解する
やれやれ、仕方ない、此処は妥協するか
「たまには公衆の面前で甘えさせて貰うのも悪くないと思ったのだが、まあいい」
「貴方考え方がおかしいわ!」
たまらず叫んだ夏未に鬼道は歩み寄ってくしゃくしゃと頭を撫でた
「!!」
「まあそんなに怒るな」
「ッ!!」
ふいっと顔を逸らして足元へ視線を落とした夏未の睫毛を眺めながら、鬼道は口を開く
「今度2人になった時にしてもらうか…耳掻きも付けてな」
「耳掻き…?」
「そうだ、王道だろう?膝枕と耳かきは」
再び夏未の顔がカッと赤くなったが、今度は怒りではないようだった
その様子にゴーグルの奥で目を細めながら、微かに微笑むと、鬼道は「約束だぞ」と手にしていたタオルを夏未に渡して歩いて行ってしまった
「もう…」
困り顔と照れ顔が混ざった複雑な表情を浮かべる夏未
耳掻きなんて…したこと無いんだけど
ハッとしたその表情が俄かに青くなり、夏未は慌てて秋に駆け寄った
「き、木野さん…」
「え?」
夏未は豪炎寺を起こさないように小声で話を続ける
「耳掻きってした事ある?豪炎寺君の…」
「??」
思わず顔を赤くした秋の膝の上で、ぴくりと豪炎寺の眉が動いた事には誰も気付いていない