▼この気持ちが恋になる前に
「剣城ってさ」
「なんだ」
「空野さんの事好きなの?」
ぶは、とドリンクを吹き出した剣城のそんな失態を、眺めるのはマジで面白い
だってコイツ、いつも何があっても動じない、って感じだから
「いきなり何を言うんだ…狩屋」
ドリンクを握る手が震えてる
でも口の周りまだビシャビシャですよ?
「笑ってないで何とか言ったらどうなんだ」
ようやくタオルで口元を拭いた剣城が、ガン睨みで俺を威嚇して来る
ちら、と剣城の後方から空野さんがこっちに歩いて来るのを確認しながら、俺は口を開く
「だって良く見てるし」
「見てない」
「見てる」
「…見てない」
「だってさ、空野さんと良く目、合わない?ねえ空野さん?」
「!!!!」
剣城が驚いて後退る、…いやあれは飛び上がった、て言った方がいいのかな
とにかくかなり剣城は驚いたみたいで、1メートルぐらい俺と空野さんから離れた
「休憩とかさ、剣城と良く目え合うでしょ?ね?」
「そっ…それは…」
ちら、と空野さんが剣城を見て、剣城も空野さんをちら、と見る
その空気、ほらほらもう告っちゃったら?お互いに意識してるってバレバレなんだよね
まあ俺としてはそういうのからかうの凄く楽しいから良いんだけどさ…
早くして貰わないと、俺も困るんだよね
「じゃあさ〜…俺、空野さんの彼氏に立候補しちゃおうかなっと」
「「へ?」」
剣城と空野さんが2人声を合わせる
「空野さん1年の間でもかなり人気あるからさ〜放っておくと誰かに取られちゃうかも知れないし、そしたら何か勿体ないし」
「だッ…ダメだ!」
「!!」
ぅあ、と剣城が唸った
あ〜ああ、咄嗟に本音が出ちゃったみたい
あの剣城がね、相当に焦ったのかも知れないな
「引っ掛かった」
ニヤリと笑えば、ゴツン、と鈍い痛みが頭頂部に響いた
「って!何すんだよ!」
「おま、お前って…ヤツは!!」
「どつく事無いだろ、乱暴なヤツだな!」
はあ〜と俺はワザとらしく肩を竦めた
「とにかくさ、後は2人で何とかしてよね、俺の出番は此処までってことで」
「ちょ…待て狩屋!」
「狩屋君!」
ひらひらと手を振って、俺は2人の元を後にする
知らない誰かに取られるなら、アイツの方が100倍良い
だって空野さんはずっとアイツを見てたんだから
その方が、空野さんだってずっとずっと嬉しいに決まってるんだから
そうしたら、俺だって、…嬉しいんだから