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▼簡単にはいかないことなんてたくさんあるんだから


山菜が神童に向ける視線が単なるファンとしてじゃない事なんて
ちょっと見てたらたいがいのヤツは気付くと思うんだけど

当の本人と言えば、あれだけ写真を撮られているにもかかわらず
普段から女子に人気があるから、スルーする事に慣れてるだけなのか
他の部員達も同じ様に写真を撮られていると呑気に思っているからなのか
それとも本当に山菜の気持ちに気付いてないからなのか
いつも優しげな笑みを浮かべてやり過ごす

そんなんでいいのかよ、ってたまに俺は思うんだけど
山菜も神童と同じように笑って、やり過ごされた想いをやり過ごす

「マネージャーになる前と同じ事してたら、他のヤツらと変わんねえんじゃねーの」

ゆっくりと振り返って、山菜は言った

「いいんだもん」
「何でだよ、他のヤツらよりももっと近付きたいって…思ってないだなんて言うなよ?」
「……そんな急には無理だよ」
「やってみなくちゃわかんねーじゃん」
「…マネージャーになる前はね」
「え?」
「私、同じクラスでも無いから…シン様に名前も知られてなくて」
「…ああ」
「でも今は、私のこと知って貰えてる」

その、満足そうな微笑みが、何だか癪だった

「俺は知ってたよ」
「え?」
「お前がマネージャーになる前から、お前を知ってた」
「……」
「いつもカメラ持って練習見に来てて、神童を撮ってた」
「……」
「……他の部員達も知ってた、まあ同じクラスのヤツもいるからな」
「……」

いつもカメラを持って練習を見に来てたら、そりゃ目立つし
誰を撮ってるんだ、って話題にもなる
でも、騒いでるのはいつも同じメンツで…神童は一度だってその話題に乗って来た事はなかった
いつもサッカーに真剣で、真面目過ぎるぐらいに、向き合って苦しんでた


「…望みがある、なんて思わない方がいいかも知れないぜ」
「倉間くん、何を言いたいの?さっきと言ってることが真逆」
「…俺も、分かんね」
「…意地悪なのは分かったけど」

勘に触ったのか、珍しく山菜がムクれてる

「でも、当たってる」
「…へ」
「倉間くんの言ってる事」

身にしみてる、山菜の表情はそう物語っていて、俺は言葉に詰まった
自分が何でこんな訳の分かんない事を言っているのか、本当に分からない

「簡単には、いかない、…でしょ、何でも」
「……ああ」
「だから私はゆっくりでいいの」
「……」
「まだまだ諦めるつもり、無いから」
「ふうん」
「応援してくれないの?」
「さーな」
「そっちから話振って来たくせに…」
「たまたま気が向いたんだよ」

俺はポケットに手を突っ込んで、その場を後にする
「もう〜」と言う山菜の怒ったような声が聞こえて、思わず苦笑した


人の気持ちなんて…そうそう簡単になるもんじゃない
ちゃんと山菜は分かってた


分かってなかったのは、きっと、…多分俺だ







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