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「#甘甘」のBL小説を読む
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▼それは暑さなんかのせいじゃない


「剣城、明日の日曜、河川敷で練習するんだ、時間あったら来ない?」
「…時間あったらな」
「待ってるから絶対来てよ!」

清々しい笑顔を見せる松風と手を振る西園から目を逸らし、俺は歩きだした
その後ろからぱたぱたと走る足音が近付いて来る

「剣城君!」
「…?」

立ち止まると空野が追い付いて来て勢い良く尋ねられた

「明日っ…河川敷来るの?」
「…時間があったらな」
「そ、そうなんだ」

空野はぱっと頬を染めてそして上目遣いで俺を見詰めて来るものだから、何となく目を逸らす

「あの……」
「?」

言葉を切ってただ俺を見詰める空野
その場の空気に耐えられず、俺は乱暴に言い放った

「何か言いたい事があるならさっさとしてくれないか」

すると空野はブンブンと首を横に振った

「あっ…いや、何でも無いっ、あ、ははは」

じりじりと後退ると、空野は「お疲れ様!」と言い残し、松風達の方へと走って行ってしまった
何を言いたかったんだ?アイツ…






「どうした京介」

ハッと顔を上げると、兄さんが自分を見詰めている

「毎日見舞いに来なくてもいいんだぞ、お前もいろいろ予定があるだろう?」
「予定なんて無いよ」
「彼女とか居ないのか?」
「か…?」

どうやら顔を赤くしたらしい
兄さんがにこりと微笑んだ

「居るなら紹介しろよ」
「い…っ居ないって!そんなの!!」
「嘘をつけ、隠したってダメだぞ」
「本当だよ!」
「ふーん…でも好きな子ぐらい居るんだろう?」

一瞬頭を過ぎる、あの丸い瞳


「……いっ…………居ないよ!」
「その間が怪しい」
「怪しくないって…!」

こういう話は苦手なんだよ
ペラペラと手元のサッカー雑誌を捲ると、俺は立ち上がった

「サッカーの練習に行く」
「今日は日曜だぞ」
「河川敷の練習に誘われてるんだ」
「そうか…じゃあ、頑張れよ」
「うん、また後で来る」

病室を出るとお昼の食事の配膳が始まる所だった
しかし今日は遅い朝食だったので腹はまだ空いていなかった
一食ぐらい抜いてもどうって事無いしな…

そんな事を考えながら俺は河川敷に向かった




「あっ剣城来てくれたんだ!」

河川敷へ行くと松風、狩屋、西園、そして空野がシートの上で寛いでいた
あいつらはいつも一緒だな
そんな事を思っていると、松風が手招いている

「…今お昼食べ終わっちゃって…」
「お昼?」
「日曜日とか、此処で練習する時はたまに葵が作って来てくれるんだ」

空野へ目をやると、やや緊張した面持ちで膝の上で両手を握り締めている

「構わない、別に腹は空いてない」
「だっ…駄目だよ!ちゃんと食べなきゃ!」

空野がいきなり会話に割り込んで来ていささか松風も戸惑いを見せた

「でも俺達みんな食べちゃったじゃん」

松風が申し訳なさそうに俺にそう言うと、空野は松風から視線を外し俺へと目線を向け「だ、大丈夫」と小さく言った

「ほ、ほら、天馬昨日言ってたじゃない、剣城君来るかも知れないって、だ、だから剣城君の分もちゃんと別に作って来たの!」
「へえ〜空野さんやっさし〜」

からかうような狩屋の言葉
それはもしかして俺に対しても向けられているのか?

「じゃあ剣城が食べてる間に俺達は先に練習してようよ!」

西園の提案に松風が「おう!」と立ち上がり、狩屋も立ち上がる

「じゃあ剣城先やってるね!」
「お、おい…」
「ごゆっくり〜」

ニヤニヤした狩屋の顔が面白くなくて、思わずチッ、と舌打ちする
やっぱり来なければ良かったかも
そんな思いが心に湧き上がった瞬間、目の前にお弁当箱が差し出された

「ど、どうぞ」
「……あ、ああ…」

仕方なく腰を下ろしてお弁当箱を開けば鮮やかな彩色に彩られた栄養のありそうなお弁当だ

「た、食べてみて」
「……ああ」

卵焼きを頬張ると、自分好みの味だったので思わず「美味い」と言葉が口をついて出て来てしまった

「本当に?」

勢い良く身を乗り出した空野の顔が意外に近くて、俺は慌てて身体を引く

「あ、ごめんなさい…」
「いや…」

おにぎりを食べながら空野が差し出したお茶を飲む

…こいつと会話するのは少し苦手だ…何故かは分からないけれど調子が狂うのだ

けれど空野はそんな事お構いなしに、話をし始める…


「剣城君がどんなおかずが好きなのか昨日聞こうと思ったんだけど、出来なくて…」


ああ、昨日のアレはそう言う事だったのか…


「でも、かえって良かったみたい、剣城君これ好きかなあって考えながら作るの楽しかったし、美味しいって言って貰えたし」
「……っ」

俺は思わず箸を止めて空野を見た
どういう意味だと聞きたいのに聞けない

空野もハッとして俺を見詰め返し、みるみるうちに耳まで赤くなって俯いてしまう

心臓だけが高鳴って、目を逸らそうと思うのにどうしても逸らせない
こんな気持ち知らないし、俯いてしまっている空野へどんな言葉をかけてやればいいのかも分からない

「あれ?剣城も葵もどうしたの?顔真っ赤じゃん?」

水分補給に来た天馬がいることにすら気付かなかった俺と空野は、咄嗟に顔を逸らし合う

そして、そんなに暑いかなあ…と言う天馬の脳天気さに思わず感謝してしまった


そんな午後の話







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