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▼君の名を知ったその日


放課後部活へ行こうと教室を出ると、松風と西園が気持ち悪い位な笑顔を向けながら、廊下で俺を待っていた

「剣城!携帯の番号とアドレス教えて!」
「…藪から棒に何だ」

俺の言葉に2人は嬉しそうにへへえ、とニヤケると

「携帯買って貰ったんだ!」

と声を揃えた

「それでか」
「うん!」
「俺達のも教えるから!」
「嫌だ」

俺の言葉にもめげずに、こいつらは「そんな事言わないでさ」「お願いお願い!」とゆうに10回は喚き散らした

「分かった!分かったって!」

疲れる、こいつらとは一緒に居るだけで疲れる


俺は早くこいつらから解放されたくて、早口で携帯の番号を教える
こんなの赤外線使えば早いのに、まだ使い方に慣れてないからと懇願されたからだ

「ありがとう剣城!後でメールするから!」

きらきらとした目で俺を見るこいつらはまるで小学生のガキみたいで、俺は溜め息をついた








部活が終わり、松風や西園を振り切った俺は、兄さんの病院へと急ぐ

信号で立ち止まると携帯が鳴った

2件メールが入っている
案の定松風と西園か

と、その時…

携帯に着信

「はい」
『あっ!剣城?メール届いたかなあ!?』

やかましく聞こえる松風の声の他に、西園もいるのだろう、「僕にも代わって代わって」と聞こえてくる…

ったく…

「届いてるから、いちいち確認で電話掛けて来るな!」

俺はそう怒鳴ると携帯を切った
しかし直ぐにまた携帯が鳴り、俺は舌打ちをし

「今度は何だ!」

と怒鳴った

『……ご、ごめんなさい』
「???」

俺は訳が分からず、信号が青になったにも関わらず、立ち止まったままだった

「お前…誰だ」

いや、この声、聞き覚えがある

『空野葵だよ、マネージャーの』
「何で、お前が、俺の」
『天馬にね、教えて貰ったの…でも剣城君に許可貰ってないから、許可貰おうと思って…電話を掛けてみたの』
「……別に許可なんて」

俺がそう言うと、携帯を通してホッとした息遣いと、嬉しそうに笑うあいつの声が聞こえて来た

『良かった!じゃあ 、たまにメールしていい?』
「用事があるならな」
『じゃあ用事たくさん作らないと!』
「は?」
『あっ、えと、何でも無い!ありがとう剣城君』


本当は早く切りたいのに、…何故か切りたくない、そんな訳の分からない感覚が一瞬よぎる

「お前の名前、どう書くんだよ」
『えっと、青空の空に、野原の野、に葵だよ』
「葵…」
『くさかんむりに発見の発みたいな字』
「ふーん」
『覚えてくれた?』
「まあな」
『……うれ』

こいつが何か喋るのと同時に、走っている車がクラクションを鳴らし、俺は顔をしかめる

「何か言ったか?」
『なん、何でも無い!じゃあ今日はこれで!』
「ああ」

携帯を切り、思わずキョロキョロと辺りを見回した
まさか松風とか西園が傍にいたりしないだろうな…



気がつけば、携帯のアドレス帳に番号を登録しながら、思わず口元が緩んでいる
僅かな高揚感が俺を満たし、少しばかり心臓の鼓動が早い…

「あおい、…これか…」

あいつ、空野って言うのか




何回目かの青信号に、俺はやっと歩き出した



けれど何故か、さっきより足取りが軽い気がするのは絶対に思い違いだ…
俺は歩きながら、頑なにそう思う事にした





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