▼君の名前を知りたくなった
「剣城、一緒に部活行こうよ!!」
顔を上げると松風が教室のドアの所に立っていた
「先行けよ、俺は後から行く」
「分かった!じゃあ後で!」
わざわざ手を振った松風を俺は無視した
恥ずかしいヤツだ
それに何で一緒に部活に行かなくちゃならないんだ
さっさと先に行けばいいものをわざわざ俺のクラスまで呼びに来るなんて…どうかしてる
はあ、と思わず溜息をついて、椅子から立ち上がり教室を出る
だいたい…あの松風の傍にいつもいるちょこまかしたヤツ…名前…にし
ああ、西園だ
あいつも松風と一緒になってあの甲高い声で騒ぐんだよな
全く騒々しいったらないぜ…
サッカー棟に着くと、ほとんどの部員達が既に来ていて、ぞろぞろと練習へと向かう所だった
「剣城、あっちで待ってるよ!!」
「分かったって!!!」
思わず怒鳴った俺の後ろから、クスクスと笑い声が聞こえる
振り返ると、同じ1年のマネージャーが立っていた
「……何だよ」
「流石の剣城君も、天馬のペースに巻き込まれちゃってるわよね」
「は?俺が?まさか」
思わず声を荒らげた俺に、驚いた様な顔をしてこいつは言った
「へー…剣城君もそんな顔するんだね」
「はあ?」
「天馬、嬉しいんだよ、剣城君が一緒にサッカーしてくれるようになって」
「……」
「サッカー上手い人と一緒にプレイするの、楽しいんだよ」
「まあ…あいつのプレイもマシになって来たからな」
「それ本人に言ってあげたら、すごく喜ぶのに」
「そんな事言う気は無い、これ以上俺の周りでうるさくされたら、かなわないからな」
そう言い残し、俺はロッカールームへと入った
着替えてロッカールームを出ると、さっきのヤツがドリンクを大量に抱えて行く所に鉢合わせした
「……あ」
「?」
意味も無く笑顔を見せるコイツは一体何だ…
「剣城君、初めて見た時は制服でサッカーやってたけど…やっぱりユニフォームの方が似合うね」
「そりゃどーも」
「うん、格好いい」
「か…?!」
俺は思わず、そいつの顔を見た
そいつは驚いた俺の顔を見た
「……………」
変な沈黙が数秒、何かに気付いたのか、そいつがいきなり顔を赤くしたから、俺は益々訳が分からなくなって、思考が停止した
沈黙は更に続いて、変な汗が滲んで来たような気がする
これを打破するものは何か無いのk…
見ればそいつの腕が緩んで、ドリンクのボトルが落ちそうになっていた
「…貸せよ、持ってやるから」
「え?」
「他にもあるんだろ?それ持って来いよ」
無理矢理ボトルをそいつから奪う
「…優しいんだね」
「やさ…??」
何だこいつは、こいつの傍にいると調子が狂う
おかしな事を次々と口にするし、顔を赤くするし!!!
「俺は優しくなんか無い!」
そう切り捨てて俺はグラウンドへと向かう
「ありがと!」
背中にそいつの声が聞こえてきたけど、振り向くものか
畜生落ち着け心臓
ガラじゃない、こんなの、全然ガラじゃないんだ
ドンッと勢いよく大量のボトルをベンチに置くと、フー…と息を吐く
「剣城〜こっちこっち!!」
「……」
ようやく落ち着いて来た汗と心臓にホッとして、俺は松風と合流
柔軟する松風の背中をぐいぐいと押しながら、ふと…よぎること
あいつの、名前、…そう言えば何て言ったかな