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▼鬼道→←夏未2


「此処は…」

夏未が小さく呟いたのを鬼道は聞いた
しかしその表情を見る事すら出来ず、きゅ、と口を真一文字に結び、さっと歩き出す
それに気付いた夏未が慌てて後を追いかけた

「学生2枚」

入口で料金を支払い、園内案内図を受け取る鬼道
鬼道はそれを食い入る様に眺め、ある一点を見詰めている
夏未はそっと時刻を確認する…まだ17時半、時間はまだ大丈夫だ

「鬼道君、遊園地なんて一体…しかもこんな時間に」
「………」

困惑した表情の夏未の手をいきなり掴んで、鬼道はずんずんと中へ進む

「…っき、鬼道君??」

ほぼ小走りで、鬼道は目的地へと進む
夏未は「ちょ、」「速い」とか言いながらも必死で鬼道に手を引かれ、走っている

そして目的地に辿り付いた鬼道は夏未のその手を離し、静かに口を開いた

「此処だ」
「……?」

夏未の目の前に在ったのは、大きなクリスマスツリーだった
見事なまでに飾られたイルミネーションが、素晴らしく美しい

「綺麗…」

一歩、前に進み出て、夏未はツリーを見上げた
その夏未の隣に立った鬼道は、少し緊張した面持ちで、口を開く

「何日か前、新聞で見たんだ…この遊園地に巨大ツリーが飾られたと」
「……そう…」

夏未は顔を綻ばせてツリーを見詰めている
そんな様子をちら、と盗み見て、鬼道は更に言葉を繋いだ

「その、何だ…今日はクリスマスイブだし」
「え?」

咄嗟に自分の顔を見た夏未の視線から逃れる様に、鬼道はやや顔を逸らす…

「今日、酷い事を言った、その、お詫びにだな…」
「………」
「一緒に、見られたらと思ったんだ」

驚いた表情で鬼道を見詰めると、少し間を置いて…夏未は小さく礼を言う

「…ありがとう…嬉しいわ…」

そして再びツリーを見上げながら独り言の様に呟いた

「……私、…私、鬼道君に嫌われていると思っていたわ…」
「そッそれは誤解だ!!!」

鬼道は夏未の腕を思わず掴んだ

夏未は驚き、無言で鬼道を見詰めている
その視線を受け止めて、鬼道は思わず顔を赤らめる

内心の動揺を隠す様に、鬼道は突然喋り出した

「今日の事は悪かった…すまない、ただ何て言うか俺は雷門が困ったり怒ったりする顔を見てるのが面白いと言うか」
「面白い?」
「いや、だから雷門と話すのが楽しくて」
「え?」
「でも周りから見ているとそうは見えないとマックスに言われて、雷門にも誤解されていたらちょっと、いやかなり困るって言うか焦って、いや、だから俺は」

其処まで夢中で喋った鬼道はハッとして口を閉じる
しかし夏未はじっと鬼道を見詰めている
一言も、その言葉を聞き逃すまいと…真剣な表情で…

鬼道の胸がどき、と鼓動する

「…」

イルミネーションが映った夏未の瞳が美しく、吸い込まれてしまいそうな感覚に陥る鬼道
自分の言葉を待つ夏未の表情はとても可愛らしくて思わず息を呑む…

『あんな可愛い雷門に向かって…』

半田の言葉が脳裏に蘇る


そんなの分かってる
雷門は可愛い 他の誰よりも
高嶺の花だって言うヤツも居るが俺はそうは思わない
俺の言葉ひとつであんな風にころころと表情を変えるんだ

それが俺は嬉しくて必要以上に構ってしまう…


「は」

突然、鬼道は笑って…掴んでいた夏未の腕を離した
そんな鬼道に向けて、夏未は怪訝な表情をする

「マックスの言う通りだったと言う訳か」
「…何の話?」
「こっちの話だ」

肩透かしをくらった形の夏未は深い溜息をついた


この人はいつもこうなのよね
肝心な所をはぐらかして、私の反応を見て楽しんで
それが悔しくて、それでも
鬼道君と会話出来るのは、楽しくて…


ふう、と再び溜息をついた夏未は、やけに清々しい表情をしながらツリーを見上げる鬼道に倣って、自分もツリーを見上げた

…すると

鬼道の指が夏未の指にするりと絡んだ

「……ッ」
「そのままで聞いてくれ」

真っ直ぐツリーを見上げたまま、鬼道は静かに告げる
しかし夏未の心臓はドキドキと高鳴り、もはや何処を見ていいのか分からなくなっている…

「せっかくのクリスマスイブだ、俺の事が嫌いで無ければ…もう少し一緒に居てくれないか」
「……!!」

少し後、夏未が恥ずかしそうに頷くと、鬼道は嬉しそうに繋いだ手に力を込めた

伝わって来るお互いの温もりに、鬼道と夏未は満たされて行く

それは言葉にしなくとも、伝わり合ったお互いの感情がそうさせているのかも知れない

「…こんな事になるのなら、きちんと着替えて来れば良かったわ」
「お互い制服姿なんだ、気にする事は無い」
「貴方どうして制服なの?今日は練習だけでしょう?」
「午前中、学校に用事があったんだ」
「そうなの…まあいいわ」

ふふ、と夏未は笑う

「結構…憧れだったのよ」
「何が」
「制服で遊園地デート」

カッと赤くなった鬼道の顔を、夏未は覗き込んだ
その表情に鬼道は心臓を射抜かれる

「デートでしょ?これ」
「そ、…」

「そうだ」と小さく呟いた鬼道は歩き出す
勿論手は繋いだまま


「では、早速何か乗るか」
「お化け屋敷は嫌よ、苦手なの」
「何、それは良い事を聞いたな」
「!!」

ピタリと足を止めて怯えた表情を鬼道に向ける夏未
その拍子に繋いでいた手が離れる

「冗談だ…そんな意地の悪い事を俺がする筈無いだろう」
「分からないわ、貴方の事だもの」

疑いの眼差しを向ける夏未を見て、鬼道は思わず笑った
今度は怒った表情で、夏未が腕を組む

「何よ」
「いや」
「何なの?」
「やっぱり、雷門と一緒に居るのは面し…楽しい」
「そ…」

夏未は言葉を一端切ると

「そんな事言って誤魔化さないで!」

と叫んだ

照れて真っ赤になって怒る夏未に近付くと、鬼道は手を差し出した

「お化け屋敷には行かないから、今日はずっと手を繋いでいてくれ」
「…っ!」
「憧れてたんだ」
「な、何を」
「彼女と手を繋いでデートするのが」
「なっ…」

夏未は今度は冷静な表情で動揺を押し殺しながら、何とか口を開く

「憧れなんて嘘でしょ」
「何故」
「らしくないもの」
「あははは」

夏未は鬼道を恨めしそうに睨むと、真っ赤な顔になりながら差し出された鬼道の手を取る

「観覧車にでも乗るか」
「……いいわ」

夏未の返答を聞いて、鬼道はふ、と笑った

「きっと夜景も、綺麗だろうな」






「…旦那様」
「何だね?」

もう直ぐ約束の時刻
愛娘との食事を楽しみに待つ理事長の元へ場寅が歩み寄る

「お嬢様はご都合が悪くなられたようで、たった今連絡が…」
「………」

理事長は諦めた様な表情で場寅を見詰めた

「サッカー部の皆とかね?」
「さあ…私には」

言葉を濁した場寅の表情からは何も読み取れない…
しかし理事長は「ふむ」と唸ると徐に口を開いた

「可愛い娘とのディナーを私から奪ったのは、一体何処の輩だろうね?」







20111223
tayutau taira

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55000キリ番リクエスト
向日葵っ子様へのお話です!

遊園地、が微妙なんですが、すみません、こんな感じで如何でしょうか…
鬼道さんは20時にはちゃんと夏未さんを送り届けました!





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