▼鬼道×夏未1
それは、円堂のこんな一言が始まりだった
(円)「なあ、この間の数学の小テスト、何点だった?」
昼休み、廊下での雑談中…何気なく円堂は鬼道に聞いた
(鬼)「無論100点だ」
(円)「うえっ…豪炎寺は?」
(豪)「満点ではないが、90点以上だ」
(円)「お前ら頭いいんだな…」
(風)「まあそう落ち込むなよ、この2人は次元が違うんだ」
(円)「風丸は何点だったんだ?」
(風)「俺?俺は88点」
(円)「……なんかもう俺、今度の学年末テスト…どうしようかな」
円堂は何か言いたげに風丸を見たが、どうやら諦めたらしく…がくりと肩を落とした
はあ〜と長い溜息をつく円堂に苦笑しながら、鬼道は言う
(鬼)「俺が教えてやるぞ」
(円)「やだ、鬼道厳しいから」
(豪)「じゃあ俺が教えてやる」
(円)「やだ、豪炎寺あんまり喋んないし」
(風)「雑談してたら勉強にならないだろう?」
(円)「そりゃそうだけどさ」
其処へ夏未と秋が揃って現れた
(夏)「何してるの?」
(秋)「円堂君どうかしたの?」
夏未と秋の顔を見て何か思いついたらしい円堂は、嬉しそうに声を上げた
(円)「そうだ!夏未か秋に教えて貰おうかな!」
(豪)「ダメだ」
(鬼)「それは許可できんな」
すかさず鬼道と豪炎寺がそれを却下する
鬼道は「そんな事この俺様が許可する訳ないだろう」と今にも言い出しそうだし、豪炎寺は眉間に皺を寄せて腕を組んだ
(円)「何でだよ!!」
うおーと円堂は頭を抱えて座り込み、そんな円堂に鬼道は容赦ない言葉を浴びせる
(鬼)「雷門や木野では、甘いからな…お前はさっさと抜け出してサッカーをするに決まっている」
(豪)「それにテストで良い点を取りたければ、厳しい環境の下でそれ相応の努力をしないとダメだろう?」
と、豪炎寺がたたみ掛けて円堂は撃墜される
いかにも最もらしい意見を述べる鬼道と豪炎寺の言葉の裏には、「この天然円堂と2人きりになるなど言語道断、いくら円堂でもそれだけは許すわけにはいかない」と言う隠された想いがありありと見え隠れしているのだが、当の円堂が気付く筈も無く、それを敏感に察知したのは、そんな3人の様子を見ながらいささか頬を引きつらせている風丸のみであった
夏未と秋は話が全く分からず改めて質問してくる
(夏)「テストの点の話?」
(鬼)「まあな」
(秋)「もうすぐ学年末よ?円堂君大丈夫?」
(円)「あんまり大丈夫じゃない…って言うか全然ダメ」
(風)「俺が教えてやるから…半田にも頼まれてるんだ」
(円)「えっ!マジ?やった!あんまり厳しくしないでくれよな!」
円堂は立ち上がって嬉しそうに笑い、やっと安心出来たのか先程の質問を秋と夏未にも繰り返した
(円)「夏未と秋はこの間の数学の小テスト、何点だった?」
(夏)「100点よ」
(秋)「とりあえず90点以上」
付き合っていると話し方まで似て来るのだろうか、と風丸は思わず夏未と鬼道、秋と豪炎寺の2人を代わる代わる眺めた
自信満々の夏未とその横で「まあ当然だろう」と言う鬼道
曖昧に言葉を濁しながら微笑む秋と、それを微笑ましく見詰める豪炎寺
やっぱりお似合いだな、と風丸が思った次の瞬間
(円)「鬼道と夏未は同点か!2人はどっちが頭が良いんだ??」
と円堂が何気なく質問し、その質問にぴくりと夏未と鬼道の眉が反応したのを風丸は見逃さなかった
秋も「あ」と言う顔をしているし、豪炎寺も無言だが明らかにこれからの展開を予想しているのか一歩、秋を伴って後ずさった
(夏・鬼)「私「俺だ」よ」
同時に言った2人は静かに、ゆっくりと、顔を見合わせた
(鬼)「雷門、ここは俺様に譲っておくのが常識だろう?」
(夏)「何故私が貴方に?」
(鬼)「賢い女性とは常に男性を立てるものなのだ、一般的にな」
(夏)「何よその男尊女卑的な考え方は」
(鬼)「そこまでは言ってないだろう、そう話を飛躍させるな」
(夏)「いいえ貴方私を馬鹿にしているのね」
(鬼)「何を言っている、これはテストの点の話だった筈だが?」
鬼道がフンと小さく笑う姿を見て夏未はますます眉を吊り上げた
(夏)「テストの点が同点だった以上、私は貴方を立てるなんて事はしないわ…そもそも満点なんて偶然の産物かもしれないじゃない?テストで満点を取ったからってそれが数学と言う科目を完璧に理解してると言う事には直結しないと思うけど」
(鬼)「その言葉そのままそっくり返してやろう…お前は自分の言葉で首を絞められる事になるのに気付かないのか?愚か者め」
(夏)「何ですって!」
どんどんエスカレートしていく夏未と鬼道
(豪)「ま、満点だったんだからそれでいいじゃないか」
(秋)「そうよ…夏未さんも落ち着いて」
(夏・鬼)「木野さんは「黙ってて貰おうか豪炎寺」黙ってて」
じろりと睨みつけられてまた一歩後ずさった豪炎寺と秋は、風丸に助けを求めるが風丸もふるふると首を振って「俺には無理」と無言で訴えている
(円)「まあそんなケンカすんなって!」
と爆弾を投下した当の本人はけろりとして、どうして2人がケンカしているのかまるで理解していない
(円)「次の学年末テストで決着つければいいんじゃねーの?」
円堂の一言で喧々諤々と言い争っていた夏未と鬼道の声がぴたりと止んだ
風丸と豪炎寺と秋は、もう直ぐ昼休みが終わってしまう事もあり、とりあえずこの場を収めようと円堂の案に飛び乗った
(風)「それがいいよ、なあ?豪炎寺!」
(豪)「全く良い考えだ!」
(秋)「そうよ、ね?夏未さん!」
それを受けて鬼道は腕を組んで夏未を見据えた
(鬼)「いいだろう、その勝負受けて立ってやる」
(夏)「それはこっちの台詞だわ」
鬼道と夏未が睨み合った時、昼休み終了のチャイムが鳴った
(円)「あ、昼休み終わりだ!」
(秋)「夏未さん部活でね」
(豪)「鬼道またな」
(風)「鬼道、雷門、先に教室に入ってるぞ」
ばたばたと円堂達と風丸がそれぞれの教室に入る中、夏未と鬼道は黙って睨み合っていた
(鬼)「どうだ雷門」
(夏)「え?」
今だ腕組みを崩さず、挑戦的に夏未を見据える鬼道
(鬼)「ただテストの点を競うだけじゃ面白みが無い…負けた方は勝った方の望みをひとつ、叶えてやるって言うのはどうだ?要するに言う事を聞くのだ」
(夏)「…それは」
(鬼)「どうした?臆したのか」
(夏)「そんな事ないわ!受けて立つわ、その条件でいいわよ」
(鬼)「それでこそ…雷門夏未、だな」
鬼道はニヤリとすると、マントを翻して教室へと足を向ける
(鬼)「勝負は一教科か?それとも総合点を競うのか?」
振り返った鬼道に夏未は鋭い視線を投げかける
(夏)「あら?一教科じゃ不安なのかしら?保険を掛けておきたいの?」
(鬼)「フン、保険を掛けたいのはお前だろうと思ってな」
(夏)「負けないわよ」
(鬼)「望む所だ」
2人は不敵に笑い合うと教室へと入って行った