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▼かなた様へ


アフロディ×夏未






美しい人を見つけた

誰も手に届かない場所に咲く一輪の花の様だ

僕は一瞬でその人の虜になった




「君、名前は何て言うんだい?」
「…?ライバルチームの貴方がそんな事を聞いてどうするの?」

彼女は冷ややかに僕を見た

「知りたいと言う理由じゃ、いけないのかい?」
「……雷門夏未よ、雷門中の理事長代理でもあるわ」
「へえ…楽しみだよ、FFでまた会えるのが」
「どうしてかしら」

彼女は腕を組んで、いささか憤慨した面持ちで僕を見返した

「君の虜になったと言ったら、信じて貰えるかな」
「…何を言っているの?真面目な顔で」
「一目惚れってあるだろう?」
「……!!」

大人びた彼女の顔つきが、途端に崩れて少女のものに変わる
ふい、と顔を逸らして彼女は黙り込んだ

「照れてるの?」
「別に、照れてなんか無いわ!それよりもう行ったらどうなの?いつまでもこんな所に居ないで頂戴」

この前雷門中を訪れた時に、彼女を見かけて…何処の誰だか知りたくてまた此処を訪れていたのを忘れていた
円堂守と一緒に居たのだから、サッカー部だとは思ったけれど

そして先程、グラウンドに向かおうとしていた彼女を見つけ、呼び止めたのだ

「また会いに来るよ、FFに優勝したら必ず」
「優勝するのは私達よ」

強気な視線を僕に向けて、彼女は笑った
挑戦的なその笑みがとても美しくて、僕の目にいつまでも焼きついて離れなかった







「久しぶりだね」
「アフロディ…」
「ああ、覚えていてくれたんだね、僕の名前」
「……まさか、キャラバンに参加してくれるとは、ね」

少し皮肉混じりに彼女は言い、僕を真っ直ぐに見詰めた

「エイリア学園、ダイヤモンドダストでの試合を引き分けに出来たのは貴方のお陰でもあるわね」
「…それはどうも…で、君は」
「?」
「僕の事を仲間だと認めてくれるのかい?」
「……そうね」

彼女は一端目を伏せると改めて僕を見詰めた

その瞳に見詰められると、金縛りにあったように、僕は身動きが取れなくなるんだ
それを必死に誤魔化して、余裕のある態度を取るのは結構至難の業だ

「貴方のこれからの頑張り次第と言った所かしら」
「そう言うと思ったよ」

僕が苦笑すると、彼女もつられて少し、微笑んだ

「…初めてだね」
「え?」
「僕にそうやって優しく微笑んでくれるのは」
「……そうだったかしら」
「ああ、前は殆ど睨みつけるような微笑みだったからね」
「あの時は、貴方はライバルチームだったじゃないの」
「まあそうだけど」

彼女は気まずそうに僕から視線を逸らす
夕焼けの太陽の光が彼女の頬に反射して、とても美しい
だから僕は聞かずには、いられない

「僕が以前言った事、覚えてるかい?」
「……何の事かしら」
「君に一目惚れしたって」
「……忘れたわ」
「構わないよ、僕は今でも君の虜だよ、…憧れてると言ってもいい」
「……」
「手が届かないとは分かっているけど」
「やめて頂戴」
「……」
「そんな特別な存在じゃないのよ、私は」

初めて見せる彼女の苦しそうで悲しそうな表情に、僕は驚き戸惑った

「どうか、したのかい?」
「……なんでもないの」
「……」
「さあ、そろそろ夕食の時間よ、私、もう行かなくては」

彼女はそう言うとくるりと僕に背中を見せた
その背中が酷く寂しそうで、僕は思わず彼女の手を掴んだ


「?!」
「…何が君を」
「アフロディ」
「そんな風に苦しめるんだ」
「……何でもないの」
「教えてくれ、そんな悲しい顔見てられない」
「………まだ、ダメ」
「え」
「まだ、ダメ…私は私の中でこの葛藤を解決出来るまで、人には甘えないって決めたの」
「……」

僕は無意識に溜息をついたらしかった
彼女は苦笑して「ごめんなさい」と謝った
彼女の心にはまだ入り込めない
やんわりと自分を拒絶されたのだ
でもそれでも、それでも僕は…

―――彼女の手を掴んだままの僕は、その指先に軽く、自分の唇を押し当てた

「!!!」
「……僕は君が好きだよ、それだけは忘れないで」

そっと彼女の手を離すと、彼女は頬を赤く染めて、何も言わず走り去ってしまった
その後ろ姿を、僕はただ見詰めていた







「此処で、大丈夫だよ」
「大丈夫か?」
「ああ」

病室の前で、円堂君が心配そうな顔を見せる

「彼に、宜しく言っておいて」
「吹雪か?」
「うん」
「分かった…」

円堂君は笑い、そして真顔になった

「必ず、エイリア学園を倒してみせるからな!」
「此処から応援しているよ」
「ああ!」



彼が帰った後、僕は1人、病室の窓から見える空を眺めた

僕は、イナズマキャラバンの役に立てただろうか…本当に

胸が詰まって、いつの間にか涙が溢れた
あの温かいイナズマキャラバンのメンバー達
その仲間になれて本当に嬉しかったし、楽しかった

もっと一緒に居たかった


コンコン

ドアがノックされて、僕は慌てて涙を拭った

「どうぞ」

現れた彼女に、僕は息が止まる程驚いた

「…まさか、来てくれるとは思わなかったよ」
「…そうね、私も此処に足を運ぶとは思わなかったわ」

花束を抱いた彼女は美しかった

「それを僕に?」
「ええ」
「君の方が、似合うと思うけどね」
「ありがとう…ちょっと活けてくるわね」

サイドテーブルに置かれた花瓶と花束を持って、彼女は静かに病室を出て行った
僕の心臓は今までよりもずっと、高鳴って、この突然の彼女の来訪に完璧に舞い上がって取り乱していた

でもそんなみっともない姿を見せる訳にはいかない
本当はこんな姿だって見せたくないのだから

暫くして彼女が病室に戻って来た時、僕はやっと落ち着きを取り戻した所だった

花瓶を置き、ベッドの脇に置かれた椅子に腰をかけると彼女は口を開いた

「大丈夫?」
「ああ、何ともないさ」

僕の返事に彼女は応えず、ちょっと微笑んだだけだった

「貴方が」
「……」
「何度も何度もディフェンスを突破しようとする姿を見ていられなかったわ」
「はは」
「最初はね」
「……」
「でも、諦めないで、そうやって何度も何度も繰り返し挑戦することで活路は見出せるって事に気付いたの」
「……」
「私ね、マネージャーとして自信を無くして居たのよ、他の2人に比べて出来ない事が圧倒的に多くて…もっと役に立ちたいのに、何も出来ない自分がとても嫌だったわ」


彼女は恥ずかしそうに僕を見る

「自分はどうして此処にいるのかしら、って、役に立てているのかしら、って」
「立てているさ……君の存在はね…其処にいるだけで、いいんだよ」
「茶化さないで」

彼女は少し眉を寄せて「真面目に話をしているのに」と僕に怒った顔を向ける

「…とにかく貴方のお陰で、また挑戦する気持ちになれたの、くじけないで何度でも」

彼女は立ち上がり改めて僕に向き直ると、頭を下げた

「ありがとう」
「………それだけじゃ、足らないな」
「え?」
「感謝の気持ちを示すには、それだけじゃ足りないよ」
「じゃあどうしたらいいのかしら」

首を捻る彼女の仕草が可愛らしくて、僕は笑う
そして手招きをした

「ちょっとこっちに来てみて」
「何かしら」

手の届く所に彼女が近づくと、僕は彼女の手を引っ張って抱き締めた

「!!!!!」

彼女が硬直して息を止めている
僕はその耳元で、囁いた

「治ったら、また会いに行っていいかな、お嬢さん?」

彼女は慌てて僕から身を引き剥がすと、真っ赤になった顔で声も出せずにただ僕を見詰めている
そして呼吸を整えると徐に、呟いた

「お嬢さん、じゃないわ」
「?」
「夏未よ」
「!」
「…必ず約束してくれるなら、会いに来てもいいわ」

そして彼女は僕に片手を差し出した
僕はその手を取って、その指先にキスをする
あの時のように

「約束、するよ…夏未」

僕がそう言うと、彼女は僕を優しい眼差しで包み、…そしてゆっくりと手を僕の手から引き離して病室から出て行った

今度会える時は…もう誰も手の届かない一輪の花の様ではなく
そう、きっと誰もを笑顔に出来る花束の様な、そんな存在になっているだろう

「楽しみにしてるよ、夏未」

僕は独り呟くと、窓から見える空を見上げて微笑んだ



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4800キリ番リクエスト小説
かなた様へ
「アフロディ×夏未」という事で書かせて頂きました

かなた様のみお持ち帰りフリーでございます!!


20110320





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