▽こねた12
窓から空を見上げれば、それはそれは真っ黒な雲が空全体を覆っている
ざあざあと降り注ぐ雨の激しさに、半田は思わず「うわあ」と声を上げた
「まるでこの世の終わりみたいだなあ」
「ほう、お前はこの世の終わりを見た事があるのか、それは凄いな」
鬼道がニヤリとしてからかうと、半田は
「俺はお前のそう言う所がキライだ」
と鬼道を指さした
その指を叩き落として、鬼道は
「冗談も通じないとはつまらんヤツだ」
と笑った
「鬼道のは冗談に聞こえないんだよ」
「そうか?要は慣れだろう」
「慣れる程いつも一緒にいねーし」
そんな2人の会話を聞きながら風丸は、密かに
(この2人は漫才でもやればいいコンビになるに違いない)
などと思っている
台風が近付いた為、今日の部活は中止
本来なら早々に帰宅の途につかなければいけないのだが…
サッカー部の面々は、ひとつの教室に集まってグズグズと雑談を繰り広げていた
「じゃあさ、雷門は鬼道の冗談には既に慣れっこって訳だ」
「は?」
マックスの問いに鬼道が少しばかり動揺を見せるが、気持ちを立て直したのか
ふふんと笑い、頷く
「まあ、そうだろうな」
「鬼道とさ、雷門ってどんな感じ?」
「は?」
そんな問い掛けをしたのは風丸であったのだが、別段何らかの意図があった訳ではない
激しく振り注ぐ雨を眺めながら、ぽつりと浮かんだ単なる疑問であった
しかしそれに乗っかった半田はそうでは無かった
「良いこと聞くなあ風丸!!!」
鬼道をやり込められそうな話題に飛び付いた半田は非常に嬉しそうな顔を見せた
「どんな感じってことは、それはつまり、どんな付き合いをしてるかってこと、だよね?風丸?」
「え?」
マックスが目を細め、にこりと笑った
それは、極上の獲物を見つけた時のマックスの微笑みであった
気付いた時には時既に遅し、風丸は「そんな話題をよくも提供してくれたな」と言う鬼道の視線をたっぷりと浴びた後であった
「何がいいことなんだ?半田」
半田の声を聞きつけて、教室の隅に居た円堂と豪炎寺も輪に加わった
「…別段、円堂の興味を引く話題じゃないし…豪炎寺は…」
鬼道の言葉を遮って、マックスがにこやかに笑った
「ああ、そう言えば豪炎寺は木野と付き合ってたよね」
ピクリと豪炎寺の眉が反応し、そして何か納得したような表情をした
どうやら今からマックスや半田の暇つぶしの話題の中心になりそうだと理解したらしかった
「それが、どうかしたのか」
やや凄みのある声で威嚇したつもりだったのだろうが、そんなことはマックスには全く効果が無く、マックスは半田と並んでずいと前へ乗り出した
「2人だけの時の雷門とか、木野って、どんな感じ?」
「別に普段と何ら変わない」
鬼道が即座に答える
隙を見せるものかと言う気構えをヒシヒシと感じる
「普段と変わらないって、夏未はいつも難しい顔してるよな、鬼道と居る時もあんななのか?大丈夫なのか?」
「あんなって…」
心配顔の円堂を見詰め、鬼道はすらすらと答え始めた
「雷門は学校に居る時はそれなりに気を張ってはいる、しかしそれは当然のことだ」
「うん」
円堂は真剣な面持ちで鬼道の話を聞いている
「理事長代理としての仕事もあるし、生徒会長としての責務もあるし、他にも仕事は沢山あるからな、難しい顔をしていると言われればそうかも知れん」
「うん」
「だがしかし、俺と一緒の時は…学校で見せない表情をたくさん見せてくれる…と言うか俺と一緒の時しか見せないな」
スラスラと得意気に喋る鬼道は最初の気構えも何処へやら…かなり自慢気だ
「甘えた時など普段とのギャップがまた…」
「たまらないって訳だ」
マックスの言葉に鬼道は「しまった…」と言う顔をした
「くそ…円堂にしてやられた!」
「何だよ鬼道俺は何にもしてないぞ」
「この天然め…」
「普段と変わらないって全然そんな事ないじゃん…他にどんな顔を見せるって言うんだよ教えろよ鬼道」
半田が顔を赤くして迫り、鬼道は心底迷惑そうな顔を向ける
「そんなことをこの後に及んで俺が喋ると思うか?愚かなヤツめ」
「くそ〜」
「木野は豪炎寺と2人の時どんな感じ?」
マックスが豪炎寺へと矛先を変える
「別に…」
「ああじゃあ、あんな感じ?」
「まあ…でも…2人の時はみんなの前よりも数倍かわいい」
豪炎寺が真顔でそんなことを淡々と言うものだから、その場にいる一同は暫く固まった
と、言うのも豪炎寺の口から「かわいい」と言う言葉が出てくること自体が、イメージからして全く想像できなかったからだ
そして何かを思い出したのか、フ、と笑ったのだ
「あッちくしょう!!お前、今思い出したな??」
「こういう話をしていれば当然だろう」
「豪炎寺って、いろいろ意外だな」
風丸の言葉に、豪炎寺はこれまた淡々と続けた
「勝手なイメージを持ってるのはお前達だろう…」
「そりゃあそうだけど」
半田が言葉を濁すとマックスが面白そうに豪炎寺を眺める
「豪炎寺は真顔でデレるのかあ」
「別にデレてなどいない」
「自分の彼女だ、かわいいと思うのは当然だろう」
鬼道が助け船を出す
「鬼道も?」
すかさず聞いてくるマックスに、照れ隠しなのかゴホンと咳払いしながら、鬼道は頷いた
「まあな」
鬼道の言葉を聞いていた風丸が感慨深げに呟いた
「そうだよなー…俺だって自分の彼女には他のヤツには見せない顔を見せて欲しいもんな〜」
そう言った風丸をその場に居た全員がじっと見つめた
「な、なんだよ」
「風丸はいろいろ願望がありそうだな」
豪炎寺が言うとマックスが半田を指差す
「理想が高いのはこいつ」
「うるさいな〜そういうマックスはどうなんだよ」
「んー?俺は俺と合う人かな〜やっぱ価値観って大切でしょ」
「マックスに合うとなるとよっぽど変わった女子じゃねーの?」
半田の言葉にマックスは笑った
「俺はいたってごく普通の男子ですよ」
「なあ、円堂は?」
風丸が円堂に疑問を投げかけると、半田が円堂の答えは解っている、と言わんばかりの顔で口を開いた
「円堂はサッカーボールだろ?」
「うーん」
一同は円堂がどんなことを言うのか一斉に注目する
「そうだなー、サッカーが好きな人がいいな」
円堂の言葉に一同は顔を見合わせ頷いた
「「「それは譲れないよな」」」