▽こねた10



猫の日ねた

「鬼道くん、ちょっとこれはどういうつもり?」
「ネコ耳とシッポ付きの全身タイ…いや衣装だ」
「まさか、貴方、…いいえそんな筈、無いわよね?」

こめかみに青筋、歯を食いしばり言葉を絞り出す夏未の両手は爪がくいこむ程力が入っている

「今日は猫の日だそうだ」
「だから何なの」
「いや、何でも無いです」

これを着て語尾に「にゃあ」と付けて喋って欲しかった…と鬼道が涙を呑んだとき

「全くどうかしてるにゃ」
「!?」
「にゃにか?」
「ら、らいも」

ぴょこ

「!!」

見れば夏未の頭上には2つ、可愛らしいネコ耳が!
慌てて夏未の後ろに回り込むとスカートの真ん中から長くて左右に揺れる見事なシッポが!

「ららら雷門!お前俺の為にこんなサプライズを?」
「にゃんのこと?鬼道くん変にゃ」

困り顔で首を傾げる夏未の可愛らしいに悶えそうになりながら、鬼道は必死に考えを巡らせる


これは何だ!常に高みを目指している俺に神様がご褒美を?それか天国の両親が?
いやサッカー部の全員ドッキリか?もしこれがドッキリで半田あたりがその辺から「ひっかかった〜」なんて出て来たら鬼道財閥の力を持って有り得ないぐらいの罰を与えてやる…
しかし半田がそんな事を考えつくか?はッ?もしかして…ドラ○○んがも○もボッ○スで女子がネコになる世界を作ったのでは?


「鬼道くん?」


しかし理由などもはやどうでもいい!きっと猫の日の終了とともにこの現象も終わるに違いない!ならば俺のやる事はただひとおおつ!!


鬼道は広い視野で戦闘態勢を取る為にゴーグルを外す

「雷門!首輪付けさせてくれっ!鈴付きの!」
「それは嫌にゃあ!束縛されるの大嫌いにゃ!」
「流石にネコ化しても雷門夏未だな…うまく猫と性格が融合しているぜ…だがしかし負ける訳にはいかんッ!こんなチャンス二度と無い!首輪付きの雷門など一生かかっても拝めん!」
「にゃあ〜!」
「雷門!」
「離すにゃあ!」


鋭く尖った夏未の猫爪が鬼道の顔面を上から下まで縦に走り、鬼道は叫び声を上げる
そして鬼道の身体に伝わる衝撃と痛み


「……?」

目に入るのは理事長室の天井

「何だ…夢か」

夢オチとは情けないやら悲しいやら残念やら…何とも言えない気分で鬼道は身を起こす
理事長室のソファーから転げ落ちたらしい

「うなされていたわよ」
「!!!」

鬼道は立ち上がって叫んだ

「何だそれは!」

見れば夏未の頭にはもふもふしたのネコ耳カチューシャ、手にはボクシンググローブ並みの大きさの、もふもふのネコの手がはまっていた

「お、音無さんが無理矢理」
「………」

ちりん

「!!」
「鈴付き首輪までされてしまって…鬼道くんが喜ぶって…」

制服のリボンを外し、第一ボタンを外したその首には金の鈴がついた赤い首輪が

「やっぱり変よねぇ…」
「いいいいや変じゃ」

真っ赤な顔の鬼道を眺め、夏未は春奈の話もあながち嘘では無いようだ、と思い直す
こんな格好で鬼道が喜ぶ理由がイマイチ理解はできないが

『あとはこの仕草でこれを言えば完璧です!』

そんな事をふと思い出し、ここまでしたのだから思い切って言ってしまえと覚悟を決める


夏未は両手で猫のポーズを取ると「にゃあ」と小さく囁いた

「ららら雷門好きだ―――!」
「きゃああ!」


弾けた鬼道に夏未のネコパンチ、炸裂








うぁあ何てくだらないんだあ…


ーーーーーー




「なあ瀬戸」
「うーん?」
「お前何で普通の制服着ないんだ?」
「個人の自由だろ」
「人と違う制服を着て目立ちたいのか?それとも何か社会に対する反抗心の表れ?」

神童の言葉に水鳥はイライラとした様子を見せる

「何が言いたいんだよ」
「普通の制服姿を見たい」
「えっ!!」

水鳥は顔を真っ赤にして神童を睨んだ

「いきなり何て事言うんだ!」
「別に普通だろ…制服が嫌なら特別なコスチュームだって良いんだ…例えば俺の制服を着てみるとか俺のユニフォームを着てみるとか」
「はああああ?神童お前どうしちゃったの?」
「ホーリーロードもいよいよ大詰めだ…頑張ったご褒美が欲しい」
「…っ!」
「そしてこれから待ち受ける困難を乗り越える為にも此処で一発ドカンと脳裏に刻みつけておけるような」
「ああぐだぐだ言うな!!分かったから!」
「何?本当か?瀬戸!」
「うん…お前も頑張ったし、泣かなくなったしな」
「それは余計だ」

そう言うと神童はうきうきと嬉しそうに顔を綻ばせた

「じゃあ神童家のメイドが着ている制服…あ、やっぱりセーラー服とか」
「却下」






そしてアルバムの水鳥のイラストへと繋がる訳です




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