▽こねた9



「おい、ちょっと」

廊下で雑談している豪炎寺、鬼道、風丸、マックスの元に半田が今までに見たことの無い程の真剣な顔で話に加わって来た

「何だ半田」
「珍しく真面目な顔だな」

鬼道と豪炎寺がからかうと、半田は静かに首を振った

「お前ら…知りたくはないか」
「何が」

風丸が怪訝な顔をするとマックスがさらりと言う

「円堂と雷門の事だろー」
「何で言うんだよ!」
「だって昨日からその話ばっかじゃん」

マックスが呆れると風丸が不思議そうに尋ねた

「円堂と雷門の何を?」
「あの2人が付き合ってるのはみんな知っているだろう」

鬼道の言葉に豪炎寺が頷いた

「そう、でもさ…」
「あの2人がキスしたかどうか、昨日から騒いでるんだ」
「だから何で先に言うんだよ!」

マックスに掴みかかる勢いの半田を制して鬼道がふむ、と腕を組んだ

「少し興味ある」
「だろ?」

打って変わって嬉々とした表情を見せる半田に鬼道は眉を寄せた

「勘違いするな、お前みたいにミーハーな理由からでは決して無い…ボールと結婚すると専らの噂だった円堂が雷門とどう付き合っているのか興味があるのだ」
「一理あるな、女子との付き合い方なんてひとつも知らなそうだもんな」

風丸が鬼道の意見を聞いて大きく頷きながら言えば、豪炎寺も

「デートはサッカーの練習とか言いかねないからな、あいつ」

円堂らしいけどな、と付け加えながら、笑った

「だいたいキス、とか知らないんじゃないの?」

マックスが言えば

「まさかあ!」

と半田
しかし思い直したのか、うーん、と唸り難しい顔をする

「ありえるかも…」

そう半田が呟いた時、円堂が向こうから走って来た

「なんの話?サッカーやらないかー?」
「昼休みもうすぐ終わりだぞ」

風丸がそう言うと、円堂は残念そうな顔を見せる

「おい円堂!聞きたい事がある!」
「何だよ半田…そんな真面目な顔して…」

不思議そうな顔をする円堂を、その場の全員が凝視した







「キス?」

円堂がそう言うと、全員が、うん、と揃って頷いた

「した」
「ほらなーやっぱりしてないよなあ」と半田
「円堂がしてる訳ないよな」と風丸
「そうだよな」と豪炎寺
「だいたい付き合ったばっかりだよな」とマックス
「手が早いにも程がある」と鬼道

ははは、と笑った一同だったが、ぴたりと動きを止めた

「「なんだとッ???」」

同時に叫んだ一同は円堂に詰め寄った

「したのか円堂!」と豪炎寺
「うん」
「嘘だろ?」と風丸
「嘘じゃないって」
「どうやって!」とマックス
「へ?口と口で…」
「バカ!やり方じゃねえシチュエーションだよ!」と半田
「合意の上か!」と鬼道
「当たり前だろ〜」

そして意外に淡々としている円堂

「軽いヤツだよな?」
「へ?重さとかあんの?」
「何でこんなヤツが俺より先に…」

ううう、と半田は頭を抱えた

「其処まで聞くなよ半田」
「流石に引くぞ」

風丸と豪炎寺が冷たい視線を半田に送る横で、円堂がマックスに尋ねている

「軽いのって?」
「何でも無いよいつものバカな独り言だ」
「あ、でもたまにしt」

鬼道が無言で円堂の口を右手で塞ぎ眉間に三本ぐらいシワを刻んだ

「むぐー?」
「余計な事は言わなくて良い、したと言う情報だけで充分…」
「あら、何をしているの?」

その声に円堂以外の全員が飛び上がらんばかりに驚いたのは言うまでもない

振り返れば其処には話題の雷門夏未が可愛らしい微笑みを浮かべて此方を見詰めている

円堂以外、俄かに顔を赤くしてじり、と後ずさった
その弾みで円堂の口が自由になる

「夏未、今さ」

ヒッ、と半田が短い悲鳴を上げ、マックスも流石にあちゃ〜と言う顔をし、豪炎寺風丸の顔色が青くなった

咄嗟に鬼道が再び円堂の口を塞ぐと

「今円堂が雷門とどんな付き合い方をしているか俺達に教えてくれようとしている所だしかし俺達は雷門と円堂のプライバシーに立ち入る訳にはいかないので断ったのだが円堂がどうしても喋りたいと言うのをこうして押さえつけているのだ」



都合の良い嘘はすらすらと出て来るものだ

夏未は鬼道の言葉にみるみる顔を赤くして絶句した

「そうそう俺達はいいよ、って言ったんだけど」と半田
「円堂が雷門と付き合ってるのを自慢したがって」とマックス
必死に頷く豪炎寺と風丸

夏未は視線を円堂に移し、円堂は冷や汗を垂らしふるふると首を横に振りながらちら、と鬼道に助けを求めたが鬼道はそれを見て見ぬフリをした





「いだだだだだた!」
「ちょっといらっしゃい」

円堂が夏未に耳たぶを引っ張られて連れて行かれる様を、複雑な心境で見送った半田、マックス、風丸、鬼道、豪炎寺

「あ、あとでラーメン奢ってやろうか」

風丸の提案に「餃子と炒飯もつけてやるか」と豪炎寺が言うと「ジュースもつけてやろう」と鬼道が付け足した

「でもまさかね」

とマックスが言うと「あッ」と半田が叫ぶ

「どんなシチュエーションか聞いてない…」

嘆く半田にマックスが冷たく言った

「お前一度豪炎寺のシュートくらって矯正された方がいい」







[小話目次/本棚/TOP]