▼めろめろきゅん
窓から降り注ぐあたたかな太陽の光は、ゆっくりと流れる午後の時間を見守ってくれているようだった。ソファに深く腰掛け本を読んでいるらしい彼の後ろ姿をちらりと盗み見ながら、夏未は、幸せって、こういうことをいうのねと微笑んでみる。
「鬼道くん。紅茶入ったけど…」
「ん?そうか、早速いただくとしよう」
「ミルクとお砂糖はどうする?」
「いや、ストレートのままでいい」
夏未の心に、するり、すとん。鬼道の優しい声が、夏未は好きだった。
鬼道ソファから立ち上がり、夏未のいるテーブルの椅子に座った。
「…どうした?」
「え?」
「急にニヤニヤして」
「ええっ!?」
夏未は顔を赤面させる。まさか顔に出ていたなんて。鬼道にとって、夏未を赤面させるのは容易いことで、鬼道はすぐに悪戯を思いついたかのようにニヤリと怪しく笑う。
「…ははは」
「……何よ!」
「夏未はわかりやすくて、かわいいなあ」
「バカ!!!」
動揺しすぎた。ポットを持っていたのをすっかり忘れていた夏未は、ポットから手を離してしまったのだ。するり、がちゃん。ポットが転がったのはテーブルの上で、しかも鬼道が咄嗟に支えてくれたため、ポットが割れることはなかった。ポットから少し零れてしまった紅茶が、鬼道の手にかかってしまった。
「…熱、」
「鬼道くんっ!大丈夫!?」
夏未はすかさず鬼道の手からポットを離し、ポットを安全な場所に置いてから、ふきんを冷たい水で濡らし、すかさず鬼道の手に当てた。そこまでの一連の動作は鬼道も目を見張るほどすばやく、いつもの夏未からは想像できない動きだった。手におさえられた水の冷たさと、そっと、少し遠慮がちに握ってくる夏未の手が心地いい。
「ごめんなさい…、紅茶、熱かったでしょう?」
「いや、このくらいなら平気だ。ありがとう」
「鬼道くん…」
ふと、夏未が顔を上げた。本当に申し訳なさそうな顔で、心配そうな瞳で、鬼道を見つめてくる。その麗しい表情が、鬼道の鼓動を最も速めるものだとは本人はもちろん知らない。火傷の熱さも痛みもとうに消え去っていた。
「…夏未」
「…ん、」
その瞳に吸い込まれるように、鬼道は夏未にキスしていた。優しく、そっと。急なキスに最初は驚いていた夏未も、そっと瞼を閉じて鬼道のキスを受け止めていた。まるで、お互いの気持ちを確かめあうように。あたためあうように。大切だよって、伝えあうように。
「………」
「……はぁ…」
触れるだけのキスをして離れた唇はどこか名残惜しくて。鬼道が夏未を見つめると、夏未もまたうるんだ瞳で鬼道を見つめていた。メガネをしていなくて、本当に良かったと思った。
「…続き、するか?」
「…!!そんなこといちいち言わないでよっ、バカ!!」
また今度何かを壊されたらたまらないから、暴れそうになった夏未を抱きしめて鬼道はくすくすと笑う。腕の中にいる俺の愛するひとは、きっとまだ頬を膨らませているのだろう。だって、笑い続けていたら、何笑ってるのよ、と少し不機嫌そうな声が聞こえてきた。あったかい。幸せだ。
「…ところで夏未」
「?」
「いつまで『鬼道くん』と呼び続けるつもりだ?」
「…!」
お前も鬼道だろ。耳元でそうささやくと、夏未はくすぐったそうに体をよじった。こんなにかわいい彼女を、俺は一生手放すつもりはない。
「……だって、」
「だって?」
「恥ずかしいんだもの…」
「…力づくでも呼ばせてやるから安心しろ」
「え?」
「これから、『鬼道くん』なんて呼んだらおしおきだからな?」
「…!!」
めろめろきゅん
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お題元:魔女様
10万打のお祝いに秋穂さまから頂いてしまいました!!
更新停止したこんなサイトの10万打をお祝いして下さるなんて
秋穂さまは女神です!!!
ありがとうございました!