▼埋まらない隙間
埋まらない隙間
「…じゃあ決定ね」
「ああ、のぞむところだ」
バチバチと音が鳴りそうなくらい火花を散らしてから、夏未と鬼道はふん!と背中を向けて反対方向にざくざくと歩き出した。しかしそれは部活中、しかも休憩時間の出来事で、二人の様子をいち早く気づいて声をかけたのは円堂と秋だった。
「…なあ、鬼道?夏未と何かあったのか?」
「…円堂、今はそっとしておいてくれ。これは俺と雷門の問題だ」
「……」
「夏未さん?鬼道くんと…何かあったの?」
「…木野さん、これは鬼道くんと私の真剣勝負なの」
「…勝負?」
くるりと秋の方を振り向いた夏未の顔は、少しだけ赤らんでいた。秋は、黙って首をかしげた。夏未ははぁ、と息を吐いて話し出した。
今朝、夏未は鬼道にまだ誰もいない教室で告白をしたという。一瞬、鬼道の顔が赤くなったように見えたので、これはもしや、と確信して、あなたもかしら?とたずねてみた。すると。
「…ふん、お前が俺の気持ちを知るなど百億年早い」
「同い年のくせに、何えらそうなこと言ってるのよ。私は気持ちを伝えたわ」
「告白も上から言うのか。全く、可愛げもないな」
「な、何言ってるの!いいわよ、なんなら絶対あなたに正直な気持ちを言わせるんだから!」
「のぞむところだ。俺は負けないがな」
その後、生徒が来る気配がしたので、そこでいったん話は中断になったらしい。
そして先ほど、休憩時間に夏未が手渡り次第にドリンクを配っているとばったり鬼道と会い、話の続きをした。
「…ところで、いったい何で勝負するのよ」
「そうだな…サッカーは無理だし。…お互い得意なもので勝負しよう」
「得意なもの?」
「ああ、再来週から始まる期末テスト。どうだ?」
「あら、いいわよ。私が負けるはずがないけどね」
「何を言っている。つい先日の実力テストでは俺の方が上だったぞ」
「あら、あなたこそ何言ってるの?その前のテストでは私の方が上だったわ」
バチバチと火花が散る。勝負の始まりだ。
そして、冒頭に戻る。
「…というわけなの」
全く!と腕を組む夏未を呆然と見つめながら秋は、二人はなんでこんなに不器用で素直じゃないんだろうと頭を抱えたくなった。そこまで仲良しさんなら、もう絶対両想いなのに。夏未さん、どうして気づかないの。
「…夏未さん、ややこしいことになる前に、もう一度鬼道くんと話した方がいいよ…」
「木野さんまで鬼道くんの味方なの?!」
「味方とかそういうんじゃなくて…」
二人の話を聞いていたら、いろいろ大事なことから脱線している気がしたから。
「いいのよ、私が再来週のテストで勝てばいい話なのよ」
そう言って夏未はベンチへ歩いていった。マネージャーの仕事を任せっきりにしてしまっていた春奈が、お二人とも、これから紅白戦をやるそうですよー!と手を振っている。秋が、わかったわ、と返事をしようとした束の間、夏未が「鬼道くんはどちらのチームなの?」と春奈にたずねていたから秋は苦笑いした。
(喧嘩するほど仲がいい、っていうのかなぁ…)
そもそもこれは喧嘩なのかどうなのか、秋にはいまいちよくわからないけど。ベンチに座って、鬼道の姿ばかり目で追いかけている夏未の背中に、二人が素直になりますようにと祈っておいた。
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お題元:Largo様