▼30000hit豪秋4
走っていく秋の背中を呆然と見つめる豪炎寺の緩んだ手を、鬼道はゆっくりと外した。
そこに春奈が息を切らしてやってきた。
春「どうしたんですか!?木野先輩、今どこに走って…」
鬼「…いや…わからん」
春「わからんって…ていうか!豪炎寺先輩!!追いかけなくていいんですか!?」
豪「っ、……っ、」
風「…ダメだ、ダメージが大きくて…」
円「もう何がなんだか………ん?」
これなんだ?と、円堂が地面に落ちた紙袋を拾い上げた。
春「…あ!!そそそれは…!!」
慌てる春奈をよそに、円堂はお構い無しに中身を見る。
円「ん〜…これは?」
春「えと、それは〜」
鬼「お前のだ。豪炎寺」
驚きの声をあげる春奈をよそに、鬼道は紙袋を円堂から取り上げて、呆然とする豪炎寺につき出した。
豪「………?」
鬼「…お前が何を勘違いしてるかわからないが、これを見れば多分、解決する」
豪炎寺はその紙袋の中身を見ると、虚ろだった瞳を大きく見開いた。
豪「………今日、」
鬼「…ん?」
豪「…今日、…何日だっけ…」
*****
秋は走るのをやめて、ゆっくりと歩いていた。
秋(…何してるんだろ…私)
妹に嫉妬して、
彼を避けて、
プレゼント投げつけて、
でも。
嫌われたくなくて。
秋(…なんて…むしがよすぎるよね)
自分のしてることは、彼に嫌われることばかり。
秋(……嫌われ、ちゃったかな…………あ、)
秋は気がつくと、鉄塔広場にいた。
秋(…悩んでると、ここに来ちゃうんだよね…)
稲妻町が見渡せるところまでゆっくりと歩いて、手すりに手をつく。
いつの間にか辺りは夕日のオレンジ色に染まり始めていた。
すぅーっと鼻から息を吸って口から吐いた。
すると、身体の力が抜けて、手すりにつかまったままゆっくり膝を地面についた。
地面に、ひとつ、ふたつと、雫が落ちた。
秋「……っ、はは、」
笑えてきた。
自分の行動や考えていることに。
心が狭い。
自己中心。
子供。
秋「…私なんか…あなたに…不釣り合いだよね…」
地面に落ちた雫は小さな粒を沢山に集めて、悲しい雨が止まらなくなった。
豪「…いた…」
秋「―――!」
背中がふわりと温かくなった。
お腹をぎゅっとされて、うなじがくすぐったい。
豪「…………」
秋「…………」
すぅーっと、2人を風が撫でる。
お互いの息づかいたけが、2人の間に流れる。
豪炎寺は秋のうなじに額を埋めたまま、何度か言葉を紡ごうとしたが、口が動くだけで喉が鳴らせない。
豪(……情けない)
秋「…ごめんね、痛かったよね」
豪「…え?…あ…いや、」
秋「…もう、…しないから…」
豪「…木野…?」
いつもだったら、彼の珍しくて唐突な抱擁に胸が高鳴って、熱くなった。
でも、今は違う。
背中だけが温かくて、身体の芯は、すっと涼しい感覚だった。
秋「…ダメなの」
豪「…何?」
秋「あなたと…私では、ダメなの」
豪「……何が、」
秋「合わないの、わかったの、」
豪「おい」
ぐっ、とお腹に回る豪炎寺の腕が食い込んで、秋はうっと言葉が遮られそうになった。
締め付けられる強さが、彼が自分を想う気持ちのあらわれで、
嬉しい。
怖い。
でも。
秋は手すりを離して、自分を締め付けるモノに優しく手を添えた。
秋「…あったかかった、…豪炎寺くん…」
豪「………………」
そうだ。
よく覚えておこう。
この温もりは、私の甘酸っぱい、
思い出に、なる。
豪「…………………嘘」
秋「……え、―――あ、」
豪炎寺は片方の腕でしっかりと秋を抱き締めたまま、もう片方の手でポケットを探った。
そして、それを秋の目の前にもってくる。
豪「…これが証拠」
秋「……っ、」
それは、彼の誕生日プレゼントの為に買った、ハートの欠片の形をしたストラップ。
豪炎寺は既に、携帯電話につけていた。
豪「…あのさ、」
秋「…………」
豪「…木野が、最近俺を避けてた理由、…まだ、わからないんだ」
秋「…………」
豪「それに…何か、誤解したりして…」
秋「………、」
豪「だから、色々考えた……俺なんか、木野に、合わないとか、」
秋「っ!そんなこと!」
パッと振り向いた秋の目の前にすぐ、潤んだ豪炎寺の瞳が、夕日で輝いていた。
秋がはっとすると、豪炎寺は安心したような微笑みを浮かべた。
豪「……ほら、嘘だ」
秋「…!」
豪「離れたくなんかないくせに。…だろ?」
秋「……」
豪「…俺は、俺が木野に釣り合うかはよくわからないが…」
豪炎寺は、また顔を秋のうなじに埋めた。
豪「…こうやって、俺のこと考えてくれる木野が、…好きだ」
秋「――――っ、」
熱い。
豪炎寺の顔の、身体の熱が、冷えきった自分の芯を温めていく。
秋「――――ごめんね…」
嘘つきで、
子供で、
バカで。
きゅっと豪炎寺の手を握る。
秋「…私ね…一番に、なりたかったの」
豪「…?」
秋「でも…そんなこと、もうどうだっていい」
豪「…悪い…何のことだ?」
秋「ううん…もう、いいの」
だって。
私があなたを考える時間と、あなたが私を考える時間は、等しかった。
あなたが私を想う気持ちと、私があなたを想う気持ちは、同じぐらいだった。
秋「私もつけるね。ストラップ」
地面にできた悲しみの水溜まりが乾くのと同じころ、秋は身体が火照っていることに気づいた。
秋(…いいや…子供で)
まだまだ彼女の考えていることを察するほど成長していない彼と私。
秋は、これから一緒に歩んで行くことを決意した。
おわり
otsukimiball 赤神ジョニー様より
30000hit記念小説『豪炎寺×秋』を頂いて来ました!
ドキドキします
こういうお話好きです!
30000hitおめでとうございます!!