▼30000hit豪秋1
今まで恋愛ということをしたことがない豪炎寺は、今付き合っている秋に対してどう接すればいいか解らず、昨日、何だかよくわからない内に彼女を怒らせてしまい、朝教室で挨拶をかわすこともままならない状況にあった。
秋は豪炎寺が近づくと、『近寄らないでオーラ』をビンビンと発し、豪炎寺はひるんでしまい、たまらなくなって唯一真摯な気持ちで聞いてくれるであろう風丸に(円堂は問題外、鬼道は絶対面白がるからムカツク)相談することにした。
風丸はまず、昨日何があったかを豪炎寺に事細かく聞いた。
部活終わりに一緒に帰り、二手に分かれるまでは何ごとも無かったようだ。
その夜、メールのやりとりをしたそうで、風丸は原因はそこにあると見た。
風丸が「そのメール見せてくれ」と言ってきたが、それはさすがに無理だった。
とりあえずもう一度自分で見直してみる、と、豪炎寺は昼休みになると、屋上で隠れて携帯を見ることにした。
*****
豪炎寺はいそいそと「木野秋フォルダ」を開いた。
秋『うん、私も好きだよ』
豪(いや、これじゃなくて…)
秋『ねぇ、最近何か欲しいものとか、ない?』
豪『特に無いかな。何でだ?』
秋『そっかぁ…。ううん、ちょっと聞いてみただけ』
豪『あ、夕香が色ペンが欲しいって言ってた』
秋『そうなんだ!じゃあその内プレゼントしようかな』
豪『それと、靴も欲しいとか言ってたな』
秋『へぇ〜、やっぱり女の子だね』
豪『あと、服とか、筆箱とか、手帳とか、そんなの何に使うんだろうな』
秋『う〜ん、女の子って沢山欲しいものがあるからね』
豪『服の種類?とか言われても、さすがにわからなくて。そういうことはフクさんに任せっきりだな。ちょっと申し訳ないけど』
秋『うん、そうだね』
豪(……何か問題でも?)
結局秋の怒る理由はわからないまま、その日の部活まで秋と言葉を交すことはなかった。
*****
秋(…ちょっと、可哀想だったかな)
豪炎寺を意識して拒否し続けていたことに、秋は少し後悔していた。
しかし、すぐに思い出した。
秋(…だって、夕香ちゃんの話しかしないんだもん…)
豪炎寺と付き合って数ヶ月、一緒に帰宅したりオフの日に遊びに行ったり、中々標準的なお付き合いをしている。
特に不満はなかった。
豪炎寺は驚くほど自分を大切にしてくれていた。
今までは想像もつかなった色んな表情も、沢山見せてくれた。
…だが、彼が一番目を輝かせるものは、自分ではない、と秋は確信していた。
言うまでもなく、妹だ。
秋は、はっとして、「ああ、もうっ」と言って抱えていたドリンクのケースを勢いよく置いた。
秋(…何考えてるのよ…バカ!)
嫉妬、と言うんだろうな。
このモヤモヤを。
きっと豪炎寺自身は、妹と彼女を比べるとか、しない。
自分だけが、うだうだと考えてるだけ。
そんなこと考えてる、自分がダメなんだ、と、最近はずっとぐるぐると思考を巡らせていた。
そんなとき、豪炎寺の誕生日が近づいてきた。
秋は誕生日を祝って、彼の喜ぶ顔を想像すると、モヤモヤが少しずつ晴れていく気がした。
だから聞いたのだ。
何か欲しいものがあるか、と。
秋(……結局、振り出しに戻ったけど)
春「せんぱい?」
秋「っ!?」
振り向くと、春奈が心配そうな顔で自分の顔を覗き込んでいた。
春「先輩、何かありました?」
秋「え?…何かって?」
春「惚けたって無駄ですよ!私にはわかります!」
秋はうっと、後退りした。
春奈にはいつも自分の考えていることを見透かされてしまう。
秋(…私ってそんなにわかりやすいのかなぁ?)
春奈は目をキラキラさせて、秋の胸中を吐かせようとペラペラと口を動かす。
しかし、秋は知られたくなかった。
彼の妹に嫉妬している、なんて。
ましてや、春奈も妹、であるから。
秋「……実はね、」
春「はい!」
瞳から星を飛ばして大きな返事をする春奈が、素直でとても微笑ましかった。
秋は、(ごめんね?)と心な中で呟いた。
秋「誕生日、もうすぐなの」