いち

ここは世界と世界の狭間の宵闇、そこに建つ、家と言うよりも屋敷という言葉が当て嵌まる家屋の廊下を一人の子供がかけていた。

「たーまー!!」

その子供は自身が"たま"と呼んでいる玉藻に勢いよく抱き着きついた。

「おぉ、シンシアどうかしたのかえ?」

玉藻は勢いよく抱き着かれたため少しよろめきつつ、その抱き着いてきた子供、シンシアに問い掛けた。

「えっとね、たま!あのね、たま!」

「おやおや、焦らずともたまは逃げんよ。じゃからゆっくりお話し?」

「うん!」

一生懸命に玉藻に何かを伝えようとするシンシアの様子を微笑ましそうに見ながら、玉藻は目線を合わせるようにしゃがみ込んだ。

「しんしあね!しんしあね!たまにねみせたいのがあるの!」

「そうなんかえ?」

「うん!こ…あれ?」

「…どうしたんじゃ?」

「う?う?」

玉藻に見せたいものが見当たらないのかシンシアはキョロキョロと辺りを見回している。

「う゛ぅー…」

「これこれシンシア泣かずともよいたまが一緒に探しに行くからの?」

玉藻の言葉にも、見つからない玉藻に見せたいものの事で頭がいっぱいのシンシアは泣き出してしまった。

「六道、シンシア見つけた」

「やはり、玉藻のところですか」

するとそこへシンシアを探してこの場所に来たのであろう二人の子供が現れた。

「おお、影に六道ちょうど良いところに来てくれたのじゃが、どうかしたのかえ?」

泣いているシンシアの代わりにそう二人に問い掛ける。

「えぇ、これを」

「シンシア、月から」

「ほぅ?」

六道から手渡されたのは一枚の紙だった。

「廊下、月、シンシアのって」

「影も私も少し出掛けていて先ほど帰ったのですが、ちょうど廊下で月が『自分は今から出掛けるから代わりにシンシアに届けて欲しい』との事で渡されました」

「そうなのかえ、ありがとう二人とも」

二人の頭を優しく撫でながら玉藻は微笑んだ。

「あっ!これシンシアがたまにみせたかったの!」

「これなのかえ?影と六道が届けてくれたのじゃよ」

「えい、りくどーありがとう!」

「どういたしまして」

玉藻の手にある紙を見たシンシアは先ほどまで泣いていたのが嘘のように笑い二人にお礼を言った。

「たまそれはやくみて!みて!」

「これこれせかすでない」

早く見て欲しいのか玉藻の服を握りしめ急かすシンシア。

「ほう、よく描けておるのシンシア」

「ほんと!」

「本当じゃよ」

紙に描かれていたのは玉藻の似顔絵、一生懸命描かれた絵に玉藻は優しく微笑みシンシアの頭を撫でた。

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ザ・擬似親子
とりあえずシンシアは玉藻が大好きです