さん

パタパタと縁側を走る音がする。

肩より少し下な緑の髪をゆらゆら揺らし、手が隠れる長い袖をはためかせた小さなこどもが走りながら誰かを探すようにキョロキョロとしていた。

ふと、そのこどもは外の木の下で眠る黒い塊を見つけた。

こどもが近寄っていくと、黒い塊はその気配に気づいたらしくうっすらと目を開けた。

「…なんのようだ」

「あのねいづな、しんしあいまりくどーさがしてるのしらない?」

「…さぁ、一緒じゃないのか」

「うん」

だから自分が探しているのだとぷんぷんと怒ったシンシアの様子にも

「…そうか」

イヅナは気にすることもなく、再び眠りにつこうとした。

「いーづーなーねーちゃーだーめー!!」

シンシアは一緒に六道を探そうとゆさゆさとイヅナの身体を揺らし声をかけた。

しばらく、そのままに揺らして声をかけていると

「…うるさい」

いい加減、鬱陶しくなってきたのかイヅナはシンシアを抱き込み、ジタバタ暴れるシンシアに気にする事もなく眠りについた。




「シンシアーどこですかー?」

しばらくたって、シンシアの名を呼び探しているこどもが一人。

そのこどもは薄紫色の髪を揺らし、顔は半分は包帯に覆われていながらもまわりが見えているのかスタスタと歩いていた。

「おかしいですね…」

いつもだったらすぐに返事のかわりに自分に抱き着いてくるはずなのに…と首を傾げていると庭のあるものが目に入った。

「主(ぬし)さま」

こどもはそう言いながら一本の木に近づいていった。

木の下で再び眠っていたイヅナは自分を呼ぶ声に目を開けた。

「…六道」

自分の名を呼びなにかようかといわんばかりの雰囲気のイヅナに六道は

「あ、あのシンシアを見かけませんでしたか?」

六道はイヅナを起こしてしまったことが申し訳ないのかしゅんとしていた。

「…シンシア?」

「し、知らないのでしたら別にいいんです…」

徐々に小さくなっていく六道の声にイヅナはその頭をぽんぽんと撫で

「…お前らは足して2で割るとちょうどいいのかもな」
いや、3人だから3で割るのか?と首を傾げながら呟いていた。

「あ、あの主さま?」

イヅナに頭を撫でられたのが嬉しいやら恥ずかしいやら少し顔を赤くしつつもイヅナの呟きに首を傾げていた。

「…ああ、シンシアだったな」

六道の用件を思い出したのかイヅナは自分が着ている黒いコートの前を開けた。

「な、ななにをいきなりなさるんですかぬ……あれ?シンシア?」

イヅナの行動に呆気にとられあわあわとしていた六道はそのコートの中を見て目を丸くした。

そこにはすやすやと気持ち良さそうにイヅナの上で眠るシンシアがいた。

「……主さまこれはいったい?」

「…六道を一緒に探せとずっと揺らすから抱き込んで寝かせた」

「…そう、ですか…」

淡々とそう語るイヅナにもう何も言えないと呆然とした様子の六道だったが、はっとしシンシアを起こそうと声をかけた。

「……あ、シンシア起きてシンシア」

優しく身体を揺らしながら起こす六道に

「うー…あ!」

少しぐずりながらも目を覚まし、目の前の人物を確認すると途端に顔をほころばせて抱き着いた。

「りくどーだ!」

「うわっ…!?」

抱き着かれた衝撃で尻餅をついた六道を気にする事もなく抱き着いたまま

「りくどーりくどーたまがねーおはぎつくったからいっしょにたべよー」

にこにこと告げるシンシアに

「あ、うん玉藻から聞いたよ」

「そうなの?」

「それでシンシアが探しに出たまま戻って来ないって聞いたから影と手分けして探してたんだ」

「ぎゃくになっちゃったね!」

「うん」

慣れているのかそのまま会話を続ける六道

「…早く行かなくていいのか?」

イヅナは再びコートを着込み寝る体勢になりながら2人に声をかけた。

「そうだね!はやくいかなきゃおはぎなくなっちゃうね!」

「ちょっ、ちょっとシンシア!?おはぎは逃げないから大丈夫だよ」

シンシアは六道の手を引き駆けだした。
六道は急に手をひかれ体勢を崩しながらも走り出した。

2人が去って行くのを見ながら、イヅナはくありと欠伸をし、再び瞼を閉じた。