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2019 / 09 / 28 ぼくはおおかみでした




あるところに、狼の親子がいました。
子狼が生まれてすぐに母狼は群れからはぐれてしまい、二匹でひっそりと森の中で暮らしていました。
ある日のことです。母狼が他の森からやってきた狼の群れの雄に見初められました。母狼は息子も群れに入れて欲しいとお願いしましたが断られました。狼の世界では血の繋がった雄を群れに迎え入れてはいけないしきたりがありました。母狼も子狼もそれは承知していました。でも今まで二匹で暮らしてきたから無理を承知でお願いしたのです。すると群れの狼は苦い顔をしてどうしてもというならどちらも迎え入れられないと言いました。子狼はこれから先、弱っていくかもしれない母親のことを考えて身を引くことにしました。


申し訳なさそうな母狼に素っ気ない態度を見せその場を離れました。そして初めてひとりになりました。狩りを難なくこなせる程に成長していたので生きることに困ることはありませんでした。



ひとりに慣れ始めてきた頃に、幼い頃に母狼に行ってはいけないと言われていた人間とヤギの住む広っぱに好奇心から行ってみることにしました。
広っぱにはヤギがいました。大きなヤギの傍に小さなヤギが数匹。
狼はすぐにわかりました。これが親子なんだと。
親子のヤギの様子を見ているとなんとも言えないもどかしい気持ちになりました。
その日は短い時間そこにいてすぐに森に帰りました。
森に帰ったあと、少しの間広っぱで見た親子のヤギのことが頭から離れませんでした。
あの時、もどかしさに襲われなければ今頃お腹を満たせていたのにと思いました。


けれど次の日も広っぱに向かっていました。
あのヤギの親子を見ているとどうしても食欲がわきません。
頭に過るのは母親のこと、そして幼い頃に母親が話した自分のいた群れのこと。
この時、はじめて自分が寂しいのだと狼は気づきました。
母親がよく沢山の狼がいた群れのことを恋しがり寂しいと口にしていたことに共感出来ました。


自分の気持ちを知ることのできた狼は、その気持ちを持ったままヤギの親子の様子を眺めることが日課になりました。
ヤギの親子の様子を見ると穏やかな気持ちになりました。
羨ましさと同時に自分の中の理想を具体的に想像できる瞬間がそこにありました。
どれぐらいかそんな日が続きました。
ヤギの親子の様子を眺める狼を見つめる人間がいました。
狼もうすうす気づいていましたが自分がヤギを襲うことはないので危害を加えられることがないと思っていました。


ズドン


焼けた匂いがして自分たちと似ているけれどどこか人間の匂いのついた獣がとびかかってくる。
意識が遠のく中で「僕は狼だから狼の中でしか生きられないんだ」と思いました。当たり前のことだけれどヤギの親子を眺めることが日課になっていた狼はいつのまにか自分のその中に理想を思い描いていました。心地よい夢、母親の優しい声が聞こえた気がしました。




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