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2017 / 12 / 02 僕と怪物と彼女と


僕は怪物を殺した。彼女は優しい声で「貴方も死んだ」と呟いた。彼女に僕は見えていて触れることも出来るのに死んだと言った。

彼女と僕はいつも一緒にいた。時折、喧嘩もした。お互いの内心を知りながら必要のないとげのある言葉を投げつけあって傷つけあったりもした。傷つけあっても結局、気づいたら二人の家に戻ってきていた。僕らの最後の居場所がそこだった。
嫌いという一時的な感情も居場所を離れてみるとちっぽけでくだらなく感じられた。孤独と戦おうとしたときにいつも負けた。嫌いという感情は本当に不必要で子供じみたものだった。

「貴方は生まれ変わったのね」
彼女は寂しそうな声でそういって笑顔になった。僕は僕の中の怪物を殺したことを後悔していたから彼女の言葉が不愉快だった。
「僕は何も変わってはいない。罪を重ねただけだ」
「貴方らしさの中に怪物は悪くもよくも住み着いていたわ。必要なくなったんだから無くしてもいいのよ」
「僕は大事なものを失った気がする」
「また新しくかい始めたらいいわ。スペースがあいたんですもの」
「そんな簡単なことじゃない」
無意識に彼女の肩を強く掴んでいた。「痛い」と小さく彼女は言った。僕は自分の行動が怖くなり彼女から離れた。すると彼女は寄ってきて手を握って「あんなに言葉では拒絶していたのに貴方は怪物をすいていたのね。貴方は苦しみさえも愛していたのね」と少し寂しそうだった。

僕の中の怪物はことあるごとに僕も僕の周りの人々も苦しめた。怪物を殺すには自らの命を絶つしかないと思っていたこともあった。実際に自らを殺そうとしたこともあった。そのたびにいつも彼女が僕を静止し、僕の代わりに傷ついた。血を流したこともあった。それでも彼女は傍にいた。
「怪物に殺されてもいいのか」と僕が言うと「その時はきっと私も怪物になって戦うわ」とほほ笑んだ。そういう彼女も時には怪物から逃げた。僕からも離れていった日もあった。僕もまた彼女を突き放したりもした。けれど怪物に囚われた僕が心配なのか彼女は返ってきた。何度も繰り返して行くうちに、それが当たり前になった。

「怪物をすいていたのは君のほうじゃないのか、怪物を失った僕に君が必要あるのか」
「怪物が貴方の一部だったから私は怪物も嫌いになれなかったの。まだこだわっているの」

僕らの関係にいつも怪物がつきものだった。
何か抜けてしまった僕は同じ人間なのだろうか。

「貴方に空いた隙間に怪物以外のものを住まわせることが出来るでしょう。貴方は怪物じゃないのよ。だから今のままでも貴方なのよ。きっと怪物に貴方が住み始めたとしたら話は別だけど貴方の中にいたのが怪物だっただけよ。貴方が自分を失ったら私はどうしたらいいの」

僕は言葉を失って彼女は「怪物は最初からいなかったの。私たちは夢を見ていたのよ。昔から二人は今日のようだったでしょう」と小さく小さく呟いて僕は毎日書いていた日記を暖炉の中に投げ入れて彼女を抱きしめた。




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