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2016 / 04 / 23 静かな村のお話


むかしむかし、ある山奥に小さな村がありました。
時折、迷い込んだ旅人などを向かい入れては村に新しい風を入れ細々と暮らしていました。
着の身着のまま、村に迷い込む人や賑やかな街に疲れてまたは逃げ出してくる人もいました。
村人はどんな人であっても快く迎えました。誰もがその暖かさに感謝し村の細々とした生活の力になりました。

そんなある日のことでした。村に一人の若い青年が迷い込んできました。
誰からか逃げてきたわけでも賑やかな街に疲れたわけでもない、とても活き活きとした青年でした。丁度、若い働き手も少なく困っていた村人たちは青年のことも快く受け入れました。
青年は村人が頼まなくてもせっせと働きました。のんびりと暮らしていた村人たちも心配してまうほどの働きようでした。細々とした村が青年の働きによって活気のあるものになりました。若い村人たちはとても喜びました。青年の働きを沢山の人が支持し、彼を次期村長にと言い出す人も現れました。青年もまたその声に喜び、村をよくするためにと「山を切り拓いて道を作ろう」と提案しました。
大半の村人たちは賛成しました。彼の勢いや若さに可能性を感じたからです。
しかし、そんな青年に反発したのは彼の働きを一番に評価していた村長でした。

「君の言葉は嬉しいがこの村はこれ以上大きくならない方が良い。この大きさが山とのバランスがとれたものなんだ。一つが群れをなし自らの希望で生きては災いがくる」
村長は視線を落とし、青年に淡々と話した。青年は真っすぐに村長を見つめ言葉を投げました。

「ですが、この機を逃してはいけないのです。素晴らしい人たちもいるこの村を他の村や街に知らしめ、発展させたいんだ」

青年の言葉に村長は首を横に振り、悲しそうな目をするだけでした。
青年は諦めず、彼を支持する人を集めて道を切り開こうとしました。村の規模を広げようとしました。なかなかうまくいきません。作業中に死者が出ました。村長は祟りだといい、一部の老人や長年、村に住む人々は青年から離れていきました。

青年は来る日も来る日も作業を続けました。そんな時に、大きな嵐がきました。毎年、この時期に嵐が来るので村人たちは対処の仕方を知っていました。青年もまた、その日は作業を休んでいました。

嵐が過ぎ去り、青年が作業に戻ると彼が木を切り倒し耕していた場所に小熊の死体がありました。彼は小熊を可哀想だと思い、近くに穴を掘って埋めました。この話を村人にすると誰もが顔を青くして青年を追い出そうとしました。青年はどうしてか理解できませんでした。今まで距離を置いていた村長が重々しく言いました。

「してはいけないことをしてしまったんだよ。私は止めた。山には山の神がいる。お前がどこからきたかはわからないが、何も事情の知らないものが村に古くからいるものの言葉に背いてはいけないんだよ。強く言葉にして村がおかしくなっては困るから私はお前に強制はしなかったがな。熊は鼻がいいんだぞ。お前が食ってなくても殺していなくてもな。くるんだよ。早く出て行ってくれ。もう遅いかもしれないがな」

村長はそれ以上は何も言わずに、村人たちに家から出ないようにと指示を出しました。
そして自らも帰っていった。青年はいくつかの家のドアを叩いたが誰も反応しませんでした。

次の朝、青年はいなくなっていた。彼がいなくなってからまた村は静かな時間が流れました。時折、村人がいなくなるが、それでも変わらず迷い込んで来る人々を招き入れながら変わらない時を過ごしました。




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