町に着いて早々、軍用車から降りたレノックスは数人の部下と共に近くのショップで調達した無線機をエップスに押し付けた。
押し付けられた物を見たエップスは、信じられないとばかりに目を見開き、車に乗り込んで来たレノックスを見上げる。

「え、これをどうしろって…」
「いいから使え、これしかない」

レノックスはそう言うと、車を発進させた。
その隣でエップスは「通信範囲はせいぜい3、40キロだ」と無線機に対しての不満を漏らしている。
それでも町の周囲に航空機がいないかどうかを確認する辺り、流石軍人と言うべきか。

暫くすると、そんな彼らの上空を一機の戦闘機が通り過ぎる。

「十二時の方向にF-22!」
「よし、ブラックホークにキューブを回収させる。F-22に空から援護させろ!」

エップスの報告を受けたレノックスは、幅の広い道路に車を停めて空を見上げた。
キューブをバンブルビーの中に残して彼から降りたサム達も、同様に空を見上げる。


そんな彼らの物々しい雰囲気に何かを感じたのか、町を歩いていた近くの市民達が少しずつ観月達から距離を置き、逃げるように去って行った。
それを横目に見ながら、観月は軽く拳を握り、視線を市民から空に変える。
その目はどこまでも高く青い空を睨み付けていた。





程なくして、観月達はその視界に遥か上空を飛ぶF-22の姿を捉える。
レノックスの指示により焚かれた緑色の煙は、サム達を覆うように周囲に広がった。

「F-22、応答せよ。こちらからは見えている」

エップスが無線でF-22のパイロットに呼びかけるも、先方からの応答は無い。
それでもエップスは諦めず、F-22のパイロットに目印の煙の色と任務内容を告げる。

不意に、観鶴がエップスの手から無線機を取り上げた。
それにエップスが驚いたような声を上げるが、観鶴はそれを無視して観月に目配せをする。
観月は面倒臭そうに溜め息を吐くと、エナメルバッグから.50AEを取り出した。

人間、無駄だと分かっていてもやらなければならない事もあるのだ。
そして死ぬ気でやれば、できる事もある。

観月がゆっくりと.50AEを構えたのとほぼ同時に、アイアンハイドがトップキックからロボットへトランスフォームする。
《あれはスタースクリームだ!》

アイアンハイドがそう叫んだ瞬間、サム達の顔が強張った。
アイアンハイドは自分の付近の者に下がるよう言うと、バンブルビーの名を呼び近くにあった大型トラックを持ち上げて盾にする。
突然の訳の分からない巨大なロボットの出現に、レノックス達の周辺だけでなく少し離れた所にいた市民達も逃げ始めた。
観月は一通り人が居なくなった事を確認すると、こちらに低空飛行で向かってくるF-22に.50AEの照準を合わせる。

そしてF-22がミサイルを発射したのとほぼ同時に、観月は.50AEを発砲した。

だがそれは一発目に発射されたミサイルの先端とぶつかって某映画のような爆発を起こしただけで、すぐに二発目、三発目のミサイルが着弾、爆発する。
爆発時の爆風はその威力でオートボットやレノックス達、そして町の市民達を一気に吹き飛ばした。





『……っ』

吹き飛ばされてから数秒後。
アスファルトの破片や砂を被って倒れていた観月は、体の痛みに小さく呻きながらゆっくりとその体を起こす。
咄嗟の判断で受け身は取っていたものの、どうやら吹き飛ばされた衝撃で全身を強打した上に口の中を切ってしまったようだ。

観月は口から血の混じった唾を吐き出すと素早く立ち上がり、被害状況などを大まかに確認する。
不幸中の幸いなのか、自分を含めた人間にはこれといった負傷者は見られない。

だが、バンブルビーは違った。

バンブルビーの負傷は人間と金属生命体を合わせた中でも一番酷く、先程の攻撃によって無惨にも両脚の膝から下が吹き飛ばされてしまっている。
そんなバンブルビーの様子を見たサムは泣きそうな声でバンブルビーの名を呼び、次いで軍医であるラチェットの名を叫んだ。

その付近では、レノックスとエップスが先程の攻撃について言い争い、それを観鶴が怒鳴って止めさせている。
若くして士官階級の地位に有るだけあり、その声は普段と違って威厳に満ちていた。


不意にそんな観鶴に名を呼ばれた観月は、思考の海に沈んでいた意識を浮上させる。
何事かと視線で問えば、観鶴は観月の傍らに転がっているエナメルバッグを指差した。
こちらに向ける表情は現状故に厳しいとはいえ比較的穏やかにも関わらず、その目は『ソレを寄越せ』と強要し、久し振りの戦闘のせいか妙に妖しく輝いている。

『…なんで』
『分かってて聞くのか?』

そう言ってにやりと笑った観鶴に、観月は諦めたように深い溜め息を溢した。
そして、ノートパソコンの姿でバッグに収まっていたアデルと自分が使う数個の銃器、弾丸カートリッジを渋々取り出す。

『…中身に期待はすンなよ』

観月はそう言って、観鶴にエナメルバッグを投げ渡した。




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