《俺様はメガトロンだ!!》
冷凍保存されていた状態から目覚めたメガトロンは、そう言い放つや否や巨大なその体の至る所に張り付いた氷を周りの機材もろとも右腕のチェーンメイスで振り払った。
そして己の足元で冷却剤を噴きつる人間達をちらと一瞥だけすると、即座にジェット機のような機体に変形し視界の端に捉えていた長い大きなトンネルを突き進んで行く。
ダム全体に響き渡りそうな轟音と共に、メガトロンは目にも留まらぬスピードで己が冷凍保存されていた施設の外へ飛び出した。
ズシン、と重い音を立ててジェット機から変形したメガトロンがダム内の比較的開けた場所に着地すれば、それを真似るように地球の軍用戦闘機が一機、変形して傍らの建物の上に着地する。
――その場所がメガトロンを上から見下ろすような場所になっているのは、偶然なのか故意なのか。
《参上しました、メガトロン様》
そうエフェクトのかかった声で告げたのは、ディセプティコンのNo.2であるスタースクリームだった。
だがメガトロンはスタースクリームの口上など気にも留めず、電子音を立てて辺りを見渡す。
《キューブはどこだ》
《…人間共に奪われました》
憎々しげにスタースクリームがそう言えば、メガトロンはギチギチと不愉快そうに電子音を掻き鳴らした。
次いでスタースクリームをギロリと睨み付ける。
《…またもしくじりおったな、スタースクリーム!追うのだ!》
そのメガトロンの命令に、スタースクリームは素早く軍用戦闘機――F-22に変形し、キューブがあるであろう方角へと飛んで行った。
かなりの速さで離れていく部下を視線で追いながら、メガトロンは遠く離れていても感じ取れるキューブの反応に低く唸る。
そして自らもジェット機に変形すると、スタースクリームの後を追うように飛び立った。
◆◇◆◇◆
『くかー……』
「…ねぇサム。
この人、叩き起こしていいかしら?」
「…うん、気持ちは分かる。凄く分かるからミツキの頭にキューブの角を叩き付けようとしないで」
流石にそれ死んじゃうから、とキューブを掴んで観月に振りかぶるミカエラをサムは必死に宥める。
その甲斐あって何とかキューブは放させたものの未だに少し怒っているミカエラに苦笑しながら、サムは後部座席で眠る観月に視線を向けた。
リラックスして気持ち良さそうに眠るその姿は同年代の自分達と大して変わらず、しかし敢えて言うならば東洋人故に少し幼く見える事くらいだろうか。
すうすうと穏やかな寝息を立てる観月に、サムと毒気を抜かれたらしいミカエラは自分達が大きな戦いに身を投じているという現状を暫し忘れていた。
だがそんな時間も長くは続かず、二人はバンブルビーが流したラジオによって、現実へと引き戻される事になる。
《"伝令!""前方注意!!""英雄達のお出ましだ!!"》
「英雄達…?」
「!オプティマスだ」
バンブルビーがラジオで告げた言葉に首を傾げたミカエラに、サムはそう言って対向車線を走る統一性のない車の一団を指差した。
その先には確かにファイヤーパターンが施された青いピータービルト・379トレーラートラックが見える。
後続車にシルバーのポンティアック・ソルスティスと黒のGMC・トップキック、レスキュー車仕様のハマー・H2がいるので、彼らである事に間違いない。
オプティマス達はバンブルビーとすれ違ってすぐに豪快にドリフトをすると、アスファルトに幾つものタイヤの痕を残しながら方向を変えた。
《よォ、全員生きてるか?》
「…ジャズ?」
《?おう》
突然バンブルビーのラジオスピーカーから電子音が聞こえたと思えば、それはすぐに後方に着いているジャズの声となってサム達の耳に届く。
いきなりの出来事に少し身構えていたサムとミカエラは、味方だった事にほぅと安堵の息を吐いた。
「大丈夫、全員無事だよ。あとオールスパークも」
「掠り傷はあるけど」
《…それくらいなら大丈夫そう『是非もなし!!!』……何だ今の?》
《あの兄ちゃんか?》と不思議そうに尋ねるジャズに答える事なく、サムとミカエラは揃って後部座席に振り返る。
そして徐に腕を振りかぶると、盛大な寝言を言ってくれた友人を叩き起こすべく、それを振り下ろした。
――数秒後、鈍い打撲音と共にサムとミカエラの怒声が響き渡り、それと同時に観月の悲鳴が上がる。
そんな緊張感皆無の空気の中、サム達はハイウェイへと入って行ったのだった。
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