日常とは、案外簡単に崩壊するものである。





◇◆◇◆◇



『天崎観月さんですね』

都内某所のカフェテリア。
そのテラス席で会話に花を咲かせていた二人組の女子高生の片割れに、スーツにサングラスといった出で立ちの男が声をかけた。
黒髪をオールバックに撫で付けた彼の後ろには、控えるようにして数人の体格の良い外国人男性が並んでいる。

観月と呼ばれた長い黒髪の少女はその光景に眉間に皺を寄せ、あからさまに不機嫌そうに顔を歪めた。
苛立たしげにストローでアイスグラスの中のミルクティーを啜り、がじがじとその先端を噛み始める。

観月の名前が呼ばれた時点で我関せずを貫き、真正面で季節の新作タルトに舌鼓を打っていた短い黒髪の少女は、そんな観月の様子に深く溜め息を溢した。
次いで未だストローを噛み続ける観月に一口サイズに切ったタルトを差し出しながら、スーツ姿の男に人好きのする笑みを浮かべた顔を向けて口を開く。

『すみませんが、先にご用件だけ伺っても宜しいでしょうか?』

そして少女はその笑顔のまま、まるで他人事のようにタルトの味を称賛した観月の脳天に鋭い手刀を落とした。











『はァ!?明日からアメリカに留学ゥ!?』

場所は変わって、とあるホテルのラウンジ。
己の問いに『観月さんにしか話せない』と答えた男の言葉にあっさりと頷いて引き下がった少女と別れ、観月は一人、男に"自分にしか話せない内容"を聞いていた。
しかしあまりにも突拍子の無いその内容に、観月は思わず大声を上げる。
慌てて静かにするようにジェスチャーをした男をじろりと睨んで、観月は自身を落ち着かせる為にゆっくりと息を吐いた。

『はぁ…まァいいけど、また随分と急だな…』
『申し訳ありません…実は昨夜、合衆国のカタール作戦基地が襲撃されまして…』

男はそう言うと、現時点で分かっている情報を事細かに全て観月に伝えてゆく。
順次与えられる情報を頭の中で整理しながら、しかし観月はその青い瞳をすぅと不機嫌そうに細めた。

自身の急な留学と、カタール作戦基地襲撃の件。
その2つの情報から導き出された答えが、観月をどんどん不機嫌にさせていく。

『…それで?結局私に何が言いたい?』
『…お祖父様とお兄様より伝言です』





  Beginning Step
    "始まりの一歩"






(我々と共に合衆国までご同行願います)
(…分かった)
(それと"こっちの手違いで性別が男って事になったから、来る時は男装してきて☆"とのことです)

(……は?)





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