「ミツキ!?」
「何でミツキが…!?」
「…ンな事こっちが知りてェよ」

先に車に押し込まれていたサムとミカエラがいきなり仲間入りしてきた観月を驚いたように見つめて問いかければ、観月は不機嫌そうに答える。
険悪なムードを漂わせる観月とそんな観月に怯えるサムとミカエラ+αを乗せて、車は静かに走り出した。


「…さて、と。君達にはこれから幾つかの質問に答えて貰う。いいな」

走り出した車の中で観月が姿勢を整えるように後部座席に座り直せば、まるでそれを待っていたかのように助手席に座った男――セクター7のエージェント、シーモア・シモンズが口を開く。
他人を見下したように喋るシモンズを睨み付ける観月の瞳は異様な光を放っており、その光が右隣に座るサムとミカエラの恐怖心を煽った。

そんな中、シモンズは顔に笑みを浮かべて質問を始める。
嫌味ったらしい笑みを携えたシモンズを、観月は相変わらずの冷たい瞳で睨み付けていた。
シモンズは睨み付けてくる観月をちらりと一瞥すると、直ぐ様サムに視線を向けてゆっくりと喋り出す。

「…さて、サム。“Ledisman217”というのは、君のネットオークションでのユーザーネームだね?」

走行中の車内で、シモンズは後部座席の中央に座るサムに袋から取り出した携帯電話を見せた。
シモンズの口から知らされたサムのユーザーネームに、観月とミカエラは同時に視線をサムに向ける。
二人からの少し冷たい視線を受けたサムは、視線を宙に彷徨わせながら口を開いた。


「それはその…タイプミスしちゃって、まぁいいかって…」
「ではこれは何だ?」

そう言ってシモンズが携帯から再生したのは、かなり切羽詰まった様子のサムの音声記録。
その内容は「自分の車がロボットに変身した」「これはもしもの為の遺言だ」というものだった。

「…いかにもプレイボーイって感じね」
「…流石にこれは痛ェな」

観月とミカエラが若干引いたようにそう漏らせば、サムは気不味げに視線を下に落とす。

そんなサムを視界に映しながら、シモンズはごそごそと頻りに腕を動かす観月に意識を向けた。
どうやら手錠を外そうとしているらしい観月は、相変わらずの鋭い眼光でシモンズみ睨み付けている。
そんな観月を鼻で笑って、シモンズは携帯をサムに近付け「説明しろ」と迫った。
その瞬間にちらりと覗いた瞳には、シモンズに対する怒りと自分の無力さに対する後悔の色が窺える。
それに少しの優越感を抱きながら、シモンズはサムに向かって口を開いた。


「君は警官にこう言ったそうだな。"車が変身した"と」
「ああ…それはつまりですね、全部とんでもない誤解だったんです。車は盗まれてなかった」
「ほぉ…そうかね」
「いえ、いいんです。いなくなったと思ったけど、ちゃんと帰って…」

そこまで言って、サムは突然言葉を切る。
その行動にシモンズは訝しげに眉を顰め、ミカエラは不安げにサムの様子を窺った。
だがサムは一向に言葉を発しようとはせず、仕舞いには唇を真一文字に結び、段々と俯いてゆく。
そんなサムの状態を見て埒が明かないと判断したらしいシモンズは、質問対象を観月とミカエラに変え、再び問い詰め始めた。


「…君たちには単刀直入に聞く事にするが、どこでエイリアンの事を知った?」

シモンズがそう真面目に聞けば、瞬間、観月とミカエラが同時にクスクスと笑い出し、それぞれがゆっくりと口を開く。

「くくっ…そりゃアンタ、火星人とかE.T.の事か?」
「あんなのただの都市伝説でしょ?」
「アンタいい年してそうなのにエイリアンなんてもん信じてンのか?残念な奴だな」

二人(主に観月)が笑いながらそう言えば、シモンズは1つ深い溜め息を溢し、徐に左腕を振り被る。



バキッ!!!



『!』
「ミツキ!!!」
「…二人とも、あまり大人をからかわない方がいいぞ?自分の寿命を縮めたいのか?」

殴られた反動で窓に頭を打ち付けた観月を見ながら、シモンズは胸の内ポケットから何かのマークが入った手帳のような物を取り出し、それを観月達に突き付けた。

「これを見ろ、何をしても許されるお墨付きだ。君を一生刑務所にもぶち込める。
 勿論、君たち二人もな」

そう言って自分たちに視線を向けたシモンズに、打ち付けた頭の痛みに小さく呻く観月を気遣っていたサムが少しだけ怯む。
「間に受けちゃダメよ。こんな人その辺の警備員と変わらないわ」

ミカエラがシモンズを睨み付けながら淡々とそう言えば、シモンズは忌々しげにミカエラに視線を向けた。

「小娘が…楯突くのか?父親の仮釈放がふいになるぞ?」
「え…仮釈放…?」

シモンズが口にした仮釈放という言葉にサムが驚いたように目を見開き、ミカエラを見つめる。

「…車弄りを教わったって言ったでしょ?あれパパの車じゃなかった」

ミカエラは瞳を伏せると、観念したように過去の事を語った。
サムは驚きを隠せないのか相変わらず目を見開いており、観月に至っては俯いている為にその表情を窺い知る事が出来ない。

ミカエラはギュッと拳を握り締めた。
目の前でミカエラ自身にも逮捕歴がある、とバラしたシモンズとそれに反論出来ない自分の不甲斐なさに、悔しさからくる涙の膜がミカエラの視界をゆっくりと覆っていく。
そんな中でシモンズが一際強く言葉を発した次の瞬間、観月達を乗せた車は強い衝撃に襲われたのだった。




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