「兄ちゃん、ここでいいかい?」
「あぁ、ありがとな」

ほい料金、と観月が財布から乱雑に取り出した数枚のドル紙幣を運転手に手渡せば、観月を降ろしたタクシーは夜の闇に消えて行く。
それを家の玄関前で見送った観月は、ゆっくりとした足取りで家の中へと足を踏み入れた。





『わん!!』

観月が玄関の扉を開けると、黒いシベリアンハスキーが嬉々として観月に飛び付く。
全長1メートル以上はあろう巨体に飛び付かれた為に少しよろけた観月だったが、なんとか持ち堪えると、自分にじゃれつくシベリアンハスキー――カエデの頭に手を伸ばした。

『ただいまカエデ』

遅くなってごめんな、と観月がカエデの頭を撫でながら言えば、カエデはぐりぐりと観月の掌に自らの頭を押し付ける。
それにクスクスと笑いながら、観月は玄関の扉をゆっくりと閉めたのだった。



遊んでくれ、と尻尾を振って後を着いて来るカエデを往なしながら、観月はウエストバッグをソファーに投げ落とす。
外出時の出来事で乱れた今はすっかり短くなってしまった黒髪を手櫛で整えながら、観月はキッチンへと向かい冷蔵庫の扉を開いた。


『…オォウ……見事に重い食い物ばっかじゃねェか…』

うんざりとした表情でそう呟いた観月の目の前には、凡そ日本人には許容出来ない色や分量をした食べ物や飲み物が所狭しと並べられた光景が広がる。
――渡米して数日しか経っていない観月と違い、もう10年程経つ兄・観鶴は、すっかりアメリカの色に染まっていたようだ。

冷蔵庫の前で一人胸元を摩る観月の傍らで、カエデが餌皿に入れられたドッグフードに勢いよくパクつく。
それを横目で見ながら、観月は冷蔵庫から観鶴が唯一日本から送って貰っているというミネラルウォーターを取り出した。

『今回は兄さんに任せっきりだった私のミスだけどさァ…何でもっと軽い物買わねェンだよ、あの野郎』

つか一緒に買い出し行っときゃ良かった、と呟きながら、観月はリビングのソファーに向かう。
ソファーに投げ落としたウエストバッグを観月が手に取った瞬間、ドッグフードを食べていたカエデが外に向かって低く唸りだした。


不思議に思った観月がカエデの名を呼べば、カエデは素直に観月に近付きその足に体を擦り寄せる。
そんなカエデの頭をぐりぐりと撫でながら観月が視線を外に向ければ、隣家の庭に(見覚えのある)色とりどりのロボットが群がっていた。

『……………は?』

あまりにも衝撃的な出来事に、観月は持っていたミネラルウォーターを床に落とした事すら気付かず、呆然と外の情景を目に映す。


そんな観月をよそに、いきなりロボット達が移動し始めたかと思えば、黄緑色のロボットが電線に引っ掛かって大きく転倒し、その次の瞬間には大きな地響きと共に辺り一帯の電気が一斉に消える。


これには呆然としていた観月も流石に正気に戻り、外の非現実的な光景に頭痛を覚えながら懐中電灯を探しに二階へと続く階段に足をかけたのだった。




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