ブォォン

「ひぃぃっ!?」
『なっ!?』

観月が近付くとほぼ同時。
それまで黙っていたパトカーがいきなりアクセルを踏み込み、サムの体勢を崩す。
観月がサムに向けて伸ばしていた左手は、虚しくも宙を掻いた。

『っ!!』
「ご、ごめんなさい!!ごめんなさい!!!」

そう頻りに謝るサムを追い詰めるように、パトカーは数度に渡ってアクセルを踏み込む。
それを見て危険だと判断した観月が銃を引き抜こうと右手に力を籠めたその時。

『「!?」』

仰向けに倒れながらも必死に後退っているサムの顔に、パトカーが鋭い爪のようなものに覆われたライトを近付けた。
まるで何かの目のようにも見えるそれに嫌なものを感じた観月は、銃を勢いよく引き抜きパトカーにその銃口を向ける。


しかし、観月が発砲する事は無かった。

茫然と目を見開いて立ち竦む二人の目の前で、パトカーが金属のぶつかり、擦れ合う音を立てながら、みるみるうちに巨大な人の型に似たロボットに姿を変えていく。

そのロボットの顔らしき場所では、一対の赤い光が二人を見下ろしていた。


『オォウ…実写ガ○ダムェ……』
「う、うわぁぁ!!!」

観月が日本語で呟くと同時に、サムが悲鳴を上げながら逃げ出す。
しかし直ぐにロボットの腕に弾かれ、近くの廃車のボンネットに叩きつけられた。

「うぐっ!!」
「サム!!」
《邪魔だ、虫けら》
『!』

叩き付けられた痛みに呻くサムを助けようと、銃を手に駆け寄ろうとした観月をロボットはその巨大な腕で吹き飛ばす。
そして観月が視界から消えた事を確認すると、ロボットはその巨大なボディをサムに近付けた。

《ユーザーネーム“Ledisman217”か?》

廃車のボンネットの上で怯えるサムに覆い被さるように腕を地に下ろし、ロボットは苛立ったように語気を荒げる。

《出品番号“21153”はどこだ!?あの眼鏡はどこだ!?》
「し、知らない!!」

ガシャンガシャンと、ロボットが金属の拳を幾度も叩き付ける音が廃車置き場に響き渡った。
それにサムが悲鳴にも似た返答を返したその時。



ズガンッ!!


吹き飛ばされた拍子に切ったのか、口元に血を滲ませた観月がロボットに向かって銃を撃ち放った。
銃弾は寸分の狂い無くロボットの関節を撃ち抜き、ロボットは少し体勢を崩す。
その隙に、観月はサムの腕を掴んで走り出した。


「ミツキ!?」
「サム、俺が時間を稼ぐから入り口まで全力で走れ」

そう小さく呟いて、観月は混乱するサムの背中を強く押す。
サムは足を縺れさせながらも、観月の指示通りに走って行った。
そんなサムの背中を見送りながら、観月は銃を片手に体勢を立て直したロボットと正面から対峙する。

《虫けらが…余計な真似を…!!》
「おや、それは失礼。何せテメェの背後がガラ空きだったンでな」

つい撃っちまった、とロボットの放つ殺気に臆する事なく、観月は不敵に笑った。
その態度が癪に障ったのか、ロボットは観月に向かってその鋼鉄の腕を振り下ろす。
観月はそれを後方に跳んで躱し、空中で数度銃を撃ち放った。
しかし、ロボットの金属の装甲に全て弾かれてしまう。

「ちっ、カタブツが!!」

それに大きく舌打ちをした観月は、着地と同時に手にしていた銃をウエストバッグに仕舞った。
代わりに別の銃を取り出し、自分を睨み付ける赤い光に照準を合わせる。
銃の種類が変わった所で何とも思わないのか、ロボットが観月を叩き潰そうと腕を振り上げた瞬間。


ドンッ!!


鋭い銃声と共に、その赤い光の片方が消えた。


《ぐっ…!!》

それとほぼ同時に、ロボットが小さく呻きながら顔らしき場所――特に赤い光が消えた辺りを庇うように手をやる。
それを見た観月は、更に関節等の装甲の薄い場所を幾つか撃ち抜いた。
ロボットがその衝撃によろめいて2、3歩後退した隙に、観月は助走をつけてその側頭部付近まで飛び上がる。
そして、止めと言わんばかりに全体重をかけた渾身の蹴りをその頭に叩き込んだ。

それに耐える事が出来なかったらしいロボットは、轟音を響かせて地面に倒れる。
その隙に、綺麗に着地した観月は入り口に向かって素早く駆け出した。




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