「助けてミツキっ!!」
『は?』

観月が渡米して数日後の朝。

顔合わせの挨拶も済ませ、同年代という事ですっかり仲良くなった隣家の一人息子であるサム。
観月は現在、そんな彼に必死な形相で助けを求められていた。

「早く、早く逃げなきゃ…!!変形する悪魔のカマロに殺される…!!」
「…なァサム、取り敢えず一旦深呼吸でもして落ち着こうぜ?俺には全く話が見えねェンだが」

顔色を青くさせ、縋り付くように己のパーカーの裾を握り締めるサムに、観月は言い聞かせるように言葉を紡ぐ。
正直に言って、こんな状態の彼は薬中か精神異常者以外の何者にも見えない。

というか、まずカマロが悪魔で変形ってどういう事だ。あくまで執事でもあるまいし。

「だからっ!!この間買ったおんぼろカマロが変形してっ!!僕を殺しに…っ!?」
「…サム?」

不意に、それまで支離滅裂な説明をしていたサムが口を閉じた。
顔は血の気が引き、青を通り越して白くなっている。
不思議に思った観月がサムに声をかけるのと、サムが部屋を飛び出したのはほぼ同時だった。

「は!?ちょ、サム!?」
「来るなぁぁぁぁぁ!!!!」
「まさかの拒否!?」

予想外のサムの反応に観月がショックを受けていると、サムは彼の母親のものであろうピンクの自転車に乗って、必死の形相で歩道を走り抜けて行く。
その姿を呆然と見送った観月を無視して、(サム曰く)変形するおんぼろカマロは、彼を追いかけるように観月の目の前を走り去った。

サムとカマロの両者を見送った観月は、その背に視線を向けながらゆっくりと口を開く。
しかしその顔は色々と悟りきっており、瞳は二人ではなく何処か遠くを見ているようだ。

『…憑喪神ってアメリカにも居たんだな』

観月が溢した言葉。
人はそれを現実逃避と呼ぶ。



暫くして、彼等が豆粒程の大きさになった頃。
観月は漸く現実に戻って来た。
そして事の重大さを認識するや否や、慌てて自宅に駆け戻る。
携帯や財布等の必需品の入ったウエストバッグに護身用の銃を突っ込んで自転車に跨がると、全速力で彼等の後を追い掛けた。





◆◇◆◇◆





「…よぉサム、無事か?」
「!」

観月がカマロをなんとか追い越してサムに追い付くと、サム本人は何故か歩道に仰向けに倒れていた。
傍らにサムの乗っていた自転車が倒れている所を見ると、どうやら派手にひっくり返ったらしい。

観月がサムを助け起こそうと手を差し出すよりも先に、サムは素早く身体を起こす。
そして隣のカフェテラスに居た女性達の一人――サムと同じ高校に通う彼の想い人、ミカエラ・ベインズに一言謝ると、脇目も振らずすぐさま自転車で走り出した。

観月はそんなサムに深く溜め息を吐いくと、視線をサムからミカエラ達に向ける。
そしてぐっと足に力を籠めると、一度だけミカエラ達に頭を下げてからサムの後を追った。




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