―アメリカ ロサンゼルス国際空港―

大勢の人間が空港内を行き来する中、少し開けた場所にその男は立っていた。

すらりと伸びた長い手足にバランスの良い肢体。
セットされた短い髪は黒く艶やかで、サングラス越しに覗く青い瞳は色鮮やかに煌めいている。
身に纏う衣服は、小物一つにすらそのセンスの良さが窺えた。
そんな男に道行く女性客たちが熱い視線を送るも男は全く意に介さず、ただじっとある一点を見つめている。

不意に、そんな男の顔に笑みが浮かんだ。
その視線の先には男とよく似た顔立ちの"少年"が一人、心持ち駆け足気味で男の方に向かって来ている。
男はそんな"少年"に向かって片手を挙げると、爽やかな笑顔で口を開いた。

『久し振りだな、観月!』











『兄さん久し振り死に晒せ』
『会って早々に酷くねェか?』

合流直後に"少年"――観月が笑顔と共に放った言葉と拳に、兄と呼ばれた男――観鶴は拳を躱しながらそう返す。
観鶴のその言葉に、観月は心外だといわんばかりに大袈裟に目を見開いた。

『兄さんには一つも心当たりが無いと?』
『もしお前が手違いの件を言ってンのなら、あれは完全に意図的なものだった、とだけ言っておくが?
そもそもただの留学で合衆国に来るのに、手違いも間違いもあるわけ無ェだろ』

そう言って観月の持っていた荷物を引ったくると、観鶴は外に向かって歩みを進める。
それに暫し呆気にとられていた観月は、観鶴に催促されて漸く足を踏み出した。











『あれ、兄さんが運転?』
『じゃなかったら俺だけで出迎えるワケねェだろ』

意外そうに目を瞬かせた観月に、観鶴は掌の中で車のキーを弄びながら笑う。
そんな彼らの目の前には、観鶴の愛車であるTOY○TAの黒いアルファードが太陽の光を反射して鎮座していた。

『荷物は全部後部座席でいいな?』
『ん』

観鶴の問いにひとつ頷いて、観月は車の助手席に乗り込む。
シートの背もたれに体を預けて息を吐き出せば、ちょうど運転席に乗り込んできたらしい観鶴が小さく笑った。
そして車のエンジンをかけながら観月の顔を覗き込み、少しだけ眉尻を下げて口を開く。

『長時間のフライトで疲れただろうが今は寝ンなよ。後から辛くなる』
『…分かってる』
『って、言ってる傍から寝ようとすンな』

助手席で体を丸め、もぞもぞと収まりの良い場所を探す観月に、観鶴は眉を寄せた。
しかし既に寝る体勢に入ってしまった観月に観鶴の忠告は殆ど聞こえていないようで、観鶴は諦めたように溜め息を吐く。

そして遂には寝息をたて始めた手のかかる妹の額にひとつキスを落とすと、観鶴は車をゆっくりと発進させた。





◆◇◆◇◆





「――その案件は適当に理由付けして上層部の古狸共に回せ。馬鹿らしくて協議する気も起きん」
『…兄さん?』

空港を出てから数十分後。
観月は観鶴の不機嫌そうな声に目を覚ました。
車は既に停車しており、窓からはアメリカらしい大きな家が見える。

観月が小さく声を上げると、それに気付いた観鶴は直ぐに携帯の電源ボタンを押して通話を切り上げた。

『おはよう観月。少しはすっきりしたか?』
『ん…てか、ごめん。仕事の電話中だったンだろ?私の事なら気にしないでくれ』
『いや、大丈夫だ。実にくだらねェ案件だったからな』

そう言って笑うと、観鶴は運転席を降りて後部座席の荷物を下ろし始める。
それに吊られるように観月が車を降りれば、荷物を片手に寄って来た観鶴が若干乱れていた観月の服装を正した。

『…兄さん?』
『観月。後でお隣に挨拶に行くから、その時はしっかり演じてくれよ?』

観鶴は悪戯っぽくそう言うと、疑問符を飛ばす観月の頭を軽く小突いて穏やかに笑う。
そんな観鶴の背後に、観月はボロボロの黄色いカマロを見た気がした。





  Reunion after
 a long time

   "久々の再会"





(取り敢えずお隣さんへの挨拶は家を案内した後に行くから、そのつもりでいろよ)

(りょーかい…って兄さん。あの黒いもふもふって…)

(日本から連れてきた我が家の愛犬、シベリアンハスキーのカエデちゃんです☆)

(わんっ)





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