「わぁ〜! あの人達カッコイ〜、腹筋割れてる〜!」
カッコイイ? まあ見た目は良いし腹筋は割れてますが、一人は鬼軍曹ですよ?
「ね。一緒にビーチバレーしようって、声かけちゃおうか」
やめた方がいいです。二人とも思った以上にドSですから。
「でも、女連れじゃない?」
ヒィ! 私のこと!?
「あ、本当だ。でもなにあれ? イケメンに挟まれてるのになんかどす黒いオーラが……」
うぅ、こんな格好、もういっそ浜の奥深くまで埋まってしまいたい。
「あーッ! なんで私がこんな目に!?」
「うっさいぞ波乗り! 他の海水浴客に迷惑かけるんやない!」
センチメンタル
ドロップキック
こんにちは。波乗りジョニーです。
ヒヨコ隊としてトッキューに配属されて一ヶ月。ようやく訓練にも馴れてきた今日この頃。
なぜか。
「場所はこの辺にするか」
「はい、そっすね」
非番の日に上司二人と海に来ています。
「天気もええし気温もちょうどええなぁ。絶好の海日和ですね、隊長!」
「そうだな。どうした波乗り、具合でも悪いのか?」
「いや、まぁなんて言うか……なんですかこの状況」
海だけどいつものウェットスーツやシュノーケルの装備もなければ、資機材も持っていない。
変わりにパラソルとビーチボール、お弁当、そして真田さんと嶋本さんはラフな水着。
「突然電話で三人分の弁当作って来いなんて言うから、遊園地にでも行くのかと思ってました」
「んなわけあるか! だから色気のかけらもないTシャツにハーパンか!」
「じゃあ何なんですか! もういっそ帰っていいですか!?」
「ええわけないやろ」
だって私、海が嫌いです。
潜水士なのになぜって? なぜって……あんな派手な水着着てキャッキャキャッキャできないし!
水泳は好きだし海で遠泳とかもするし、サーフィンとかもするけど……
あのテンションは無理! どうしても! 周りと同じような水着を着てビーチバレーとかスイカ割りとかできない!
ウェットスーツなら全然いいんですけど、ここじゃあ浮きそう。家族連れ多い海水浴場だし、岩場多くて危ないからサーフィンって感じでもないし。
あ、あれか。海が嫌いなんじゃなくって、海水浴場が嫌いなんだ。っていうかむしろ水着が嫌いなのか。
はぁ。磯臭い女のままでいいのに、トッキューに来てからは何かとこの二人に(主に嶋本さんだけど)「服が可愛くない」とか「そんなんしかないなら買い物に行くぞ」とか言われている。そして三人で買いに行ったりする。
確かに私だって真田さん好みの女になりたいけど、でも
「やっぱり水着とか、無理……」
「そんなお前のために水着を用意した」
「は!?」
そう言って差し出されたのは、ピンクでフリルとレースが付いたお姫様みたいなびびびっび、ビキニ!!!!
「ヒィッ! 嫌です! 私の言ったこと聞いてました!?」
「上司の命令が聞けんのか、あぁ!?」
「パ、パワハラはやめてください」
なんで非番の日に上司に水着を着ろと強要されなければならないのか。
「着んつもりか。隊長〜、どう思います? この格好! 女として!」
「動きやすくていいんじゃないか?」
「……あかん……やっぱ無理やった」
嶋本さんがうなだれたと思えばこちらに背を向け、真田さんと話しはじめた。
「隊長、予定とちゃいますやん。いつも言うてますけど、隊長が言わんとあいつ絶対これ着ませんよ?」
「本人が着たくないと言ってるんだ。無理に着せる必要もないだろう」
「せやって、せっかく隊長が買ったのに」
え? 真田さんが?
「あの、この水着、真田さんが?」
「あぁ。お前に似合うと思った」
「……」
「ホラ、隊長っ」
「まぁ、せっかくの海だからな。お前がこれを着ているのも、見てみたいものだ」
「着ます!」
「うわー。ちょろい奴やなー」
いいんです。ちょろいと思われようが、真田さんに見てみたいって言われたから。言わされたとしても。
っていうか真田さんに買ってもらった水着とか、私ってば特別扱い!? なにこれ嬉しい!
私は荷物をパラソルの下に置いて更衣室へと駆け出した。
「ど、どうでしょう」
数分後、水着姿で浜へ戻れば、私を見るなり二人が目を細めた。
「似合うな。思った通りだ」
「サイズもちょうどええなぁ」
「あの、妙にピッタリなんですが……どうしてサイズを?」
「心眼や」
ヒィ! 怖いこの人!
っていうか、着てみたら結構セクシーなんですけど。この水着。
ホルターネックの紐は細くて心許ないし、飾りとはいえ紐パンだし。は、恥ずかしい。
「……やっぱ無理です」
「無理ちゃうやろ。変やないで? ね、隊長」
「あぁ。もしかして気に入らなかったか?」
「いやっ、違うんです! 可愛いです!」
でも、可愛いからこそ似合ってないのは百も承知で。
こんな腹筋とか足とか腕とか露出したことないし、こんなムキムキで。
仕事柄体がこんな風になるのは当たり前なんだけど、女子として見られるには、やっぱりこんなんじゃ無理だと思う。
「うぅ〜、やっぱり脱いでいいですか」