透き通る晴れは幸せ。帰り道は君に焦がれる。夕焼け、熱を冷ます風。
止まらない自転車を動かすのはあたしの足で、ワクワクして胸からキュンとしたものが溢れそうになりながら、グッと口を閉じて家路を急ぐ。
君が待ってる。家で待ってる。早く早く、君に会いたい。
君を一番好きと感じる、会える直前の、その瞬間。
そうやってお前は
言葉の弾丸を放て
付き合って三周年。同棲二年。
「ただいまー」
記念日なのに出かけたりしないのは、元々アウトドア派ではないあたし達のいつも通りで。
あたしは二年かけて作り上げた二人の空間が好きだった。何かしらの提案をしてこないということは、きっと甚も同じなんだと思う。
「お帰り」
玄関を開けて嬉しいのは、非番の君が広くないキッチンで晩ご飯の支度をしてくれてること。匂いと音。
「今日のご飯なになに?」
「何だろうな。ジョニーは座って待っていればいい」
あたしは待てと言われて待てる犬よりは利口じゃないんだろうな。荷物を置いて部屋着にさっさと着替えると、またキッチンを覗きに行く。
「お腹すいたなぁ」
ケチャップの匂い、美味しそうな料理の音。それを生み出す筋肉質な大きな背中。大好きな体。
たまらず、甚の背中に顔をうめた。
「どうした?」
「んー。しあわせしあわせ」
なんだろう。人の匂いって不思議と安らぐ。甚の匂いだったら、汗の匂いでもいい匂いって感じるんだよなぁ。
ぐりぐりと鼻と唇を背中に擦りつければ、もっともっとくっつきたくなる。
「……座って待ってろと言ったはずだが?」
「え〜」
と言いながら、言い出した甚に従うしかできないあたしは、素直にリビングのソファへ座った。
「あ、しんちゃん見なきゃ」
あたし達の最近の夕ご飯。借りてきたアニメ映画のDVDを流しながら、ご飯を食べる。
昨日の夜TSUTAYAから借りてきたDVDをPS3にセットして、甚からお呼びがかかるまでバラエティ番組を見ていた。
そして十五分後。調理を終えた甚が運んできたのは、大きなお皿に山となったあたしの大好きな
「ほああぁぁ〜っ、オムライス! オムライス!!」
ちなみにデミグラスなんてオシャレなものよりケチャップが一番好き。凄く庶民だと思うけど。
テーブルに並べられた二つのオムライスはまだ真っさらなままで、他人様から見れば馬鹿馬鹿しいと思うかもしれないけど、お互いのオムライスにケチャップで何かを描くのがあたしの幸せだ。
「ね、ね、なんて描いてほしい?」
「なんでもいい」
本当になんでもいいんだろうな。甚はテキパキとスープやスプーンを食卓に並べるといつもの席に座った。
「はい、甚も描いて」
甚のオムライスに可愛くない字で「らぶ」と描いて差し出すと、呆れたように笑う。
そして甚は少し悩んでからあたしのオムライスに「`・ω・´」と描くと皿を寄越した。
「甚が顔文字描くの初めて見た。どうしたの? なんかあったの」
「お前がいつもメールで送って来るだろう」
「あ……えへへ」
嬉しかったのは、君の中に全くなかったあたしの文化が、君に伝わっていくこと。
「では、いただきます」
「いっただきま〜す!」
せっかく描いてもらった絵を卵に塗り付けて、大きく一口頬張った。
「う、うまー! うまー! 超うまー!!」
「そうか」
「卵とろふわ〜!」
なんだ、あれか。甚は顔良し体良し仕事良し人柄良し料理も良しってか。もう本当、なんでもあたしより上手にできる甚が憎らしい。
一口二口、幸せを噛み締めていると何かを掘り当てた。
「あれ!? ……ハンバーグが……! ハンバーグが中に入っておりますぞ〜!!」
なんだこれ! あたしの好きなものだらけじゃないか!
もう嬉しすぎて泣きそう。っていうか泣くわー。涙止まらん。
「どうした?」
「いやー、美味いし嬉しいし……嬉しくて。オムonライスinバーグ」
「そうか、よかった」
「ありがとう。美味しい」
言葉は多くないけど分かりやすい表情は溢れていて、こうやって大きな笑顔の甚を見ると幸せに思うんだ。
もう、どうしてこんなにあたしを幸せにしちゃうの。泣きすぎて幸せすぎて感動死する。
「あ、そういえばしんちゃんセットしといたよ。つけて〜」
「いや、今日はいい」
「そう? 今日は最高傑作の戦国なんだけど。あ、見たいニュースあった?」
「……あぁ、そういえばそうだった」
「じゃあテレビでいいよ。しかし、素晴らしー! うまー!」
スープも美味い。野菜いっぱい入ってて素晴らしい。
「あ〜、幸せすぎる」
「そうやって、お前は素直に言う」
「え?」
「嬉しさも、悲しさも。幸せだと、一個一個に感動して。俺にとっては弾丸みたいな衝撃で」
「それ言ったら、あたしも同じだよ」
あたしにとっても甚の言動と思考は新しい世界で、違うからこそ面白い。発見と広がる世界。
「お前から見る世界は、どんなに鮮やかなんだろうな」
「……どうしたの? 甚。やっぱなんかあったでしょ」
「いや」
「じゃあなんで、突然そんな客観的なの」
「俺達は個人だ。客観的になるのは当然だろ」
なんだよなんだよ、なんだよそれ。