アナユキを見た話/メローネとギアッチョ(メルト) 「雪だるまつくーろー!ギアッチョー!」 「うるっせェエエッ!!」 「そこは私に近づかないで、でしょ!」 「よし、ギアッチョ氷の城を作るんだ。そして引きこもるんだ!2人で連れ出しに行くからさ」 メローネが私の肩を抱いて言った。 ギアッチョは噛みつくように鋭く睨むけど、あの姉妹の映画を見終えてテンションの上がった私はひとつも怖くなかった! メローネは清々しいほど晴れた窓の外を指差して、「地面凍らせてスケートしようぜ」、なんて言ってる。「スケート!?私スケートしたことないの!」、地面が魔法で凍るなんて、なんてファンタスティック!ギアッチョにはそれが可能なのかしら、これはわくわくするわ!太陽の方を向いていた私たちは部屋が真っ暗に写って目を細めた。そこにいたはずのギアッチョを探す。 けれどいつになっても返事が返ってこなかった。 「ギアッチョ?」 やっと見つけたギアッチョはソファに寝転んで反応もしてくれなかった。見ればイヤホンをしてゲーム機に視線を落としながら「あぁ、クソッ!」なんて言ってる。 「そこは、出来るわ、だろ」 メローネが独り言のように呟いて、ギアッチョの前にたった。覗いても無反応、横で手を振っても無反応。これはギアッチョなりの引きこもり作戦ね。仕方がないか、悪のりし過ぎたかもね、なんて小さな溜め息をついたとき。 「いい加減にしやがれッ!」 部屋の中がいきなり冷気に襲われた。 「そんな氷がいいなら幾らでもしてやるぜッ!ただし単なる氷じゃねぇ、極低温の世界だ。遊ぶ前に氷漬けだよかったなァッ!」 「ちょっ!」 見ればメローネがギアッチョのゲーム機を頭上に掲げて「ありのままのギアッチョを受け入れるよ!」、なんて! これは不味い、寒いっていうか痛い!痛い! 部屋の中が真っ白になってきて、空気が凍って、手足なんてとっくに動かなくって。これは不味い、死ぬかも、なんて過った時。 「この部屋の中でスタンドを使うのはルール違反だ」 落ち着いた声。ギアッチョを後ろから羽交い締めにしたリゾットがいた。 「離せッ、こいつらの妄想な頭ぶち割ってやるんだよッ」 「水道管が凍って破裂するぞ。修繕費はない。壊した本人が直すんだ」 「関係ねェッ」 「大いにあるじゃないか。まずトイレに行けない」 論点が確実にずれてるわよ!凍って動かない口元でリゾットにつっこみたかったけれど、動かないものは仕方がない。心のなかで盛大につっこんでおいたわ。さすがリゾット、リーダーね! チッ、と、大きく舌打ちをしてギアッチョはスタンドを解除した。一気に熱が戻って体のなかが痺れたようだった。 「ごめんギアッチョ」 「当分喋んな」 これは確実に怒っているわね。口をつぐんでメローネを見た。メローネはまだ解除されてなかった。 「ちょっと!メローネ死んじゃうよ!」 「黙れ」 「リゾット!なんとか」 「個人のいさかいは本人たちに任せている。部屋が無事なら口は出さん」 このリーダーはリーダーなのかしら! もう一度「ギアッチョ!」、言ったとたんメローネが解除された!あぁよかった。こんな悪ふざけで命懸けなんて馬鹿らしいことこの上ないわ! ほっとしたのも束の間、メローネは私の背中に手を回し「コレは真実の愛かな」、なんて顔を近づけてきた。 「そんなわけないでしょ!」 「だって氷漬けにされた心は真実の愛じゃなくちゃ戻らないんだぜ。あ、もしかしてギアッチョからの真実の愛なのか」 メローネがにこやかにギアッチョの方を向いた途端「ぶち割れろォッ!」、ギアッチョの声が響いた。 その後水道管が破裂することはなかったけれど、水道管の中は凍りついてしまったようですぐに水が出なかった。だから全員近くのバールや自宅に早急に戻らなくてはならなくなった。 「生まれてはじめてよ‥」 バールのトイレを借りながら、水道って凍ると水がでないんだな、と私は頭を抱えてしまったわ。 24より転載 |