ベイマッ○スを見た話/ホルマジオ(メルト)

「あー、アメコミか」

白くて弾力のある、そうマシュマロのような図体をした主人公の相棒が愛らしい映画を見ていたら後ろから声がした。

「知ってるの?」

ソファに座ったいた私は首を捻って斜め後ろを見上げる。タバコを片手にテレビの画面を見るホルマジオがいた。

「え、見たことあるの?ホルマジオが?」
話をきいているのかいないのか、グラフィックの美しい空を指差して「あれ、なんで魚なんだろうな」、そう言った。
物語はもうエンディング。
何時からそこに居たのか知らないけれど、知ってる素振りのその様子は少し楽しそうだ。

「ねぇ知ってるの?」
「知ってたら可笑しいか?」
「可笑しくはないけど」
「ならそんな嫌そうな顔すんな」

意地悪そうに笑いながら、私の頭をぐしゃぐしゃにかき混ぜた。嫌そうな顔してたかしら。ホルマジオがこの作品を見たことがあるなんて意外だけど嫌じゃないわよ。ていうかアニメーション自体を見るというのが意外よね。だから不審な目を向けてしまったのかも。
ごめんなさい、と頭を下げたら、そのまま髪の毛をぐしゃぐしゃに混ぜられ、「わっ!」、さらに深くソファに押し付けられてしまった。

「痛い!」
「大人しくしてろ」
「なんで!離してよ!」

頭を押さえ付けられるばかりか、ずしっと上半身に重みがました。どうやらホルマジオが私を下敷きにして居るようだ。ひどい!上でくつろがないで!
上がらない頭の上を追い払うように手を振るけれど、それもすぐに押さえ付けられてしまいなす術がなくなってしまった。
首は少しだけ捻ることが出来たから、ホルマジオの腕の隙間から画面を見ることができた。そこにはまるでアメコミのような画面が音楽と一緒に流れている。
窮屈なその姿勢のままそれを見て、見えないホルマジオの様子を探る。

「‥ホル、」
「あん?」
「好きなの?これ」
「テメェは好きじゃねえのか」

ホルマジオのズルいところだ。
自分のことはあまり言わずにはぐらかす。しかもヘラヘラと楽しそうにするんだ。

「ホルマジオに聞いてるの!」
「おぉ、オレもテメェに聞いてるぜ」
「私が先!」
「先着順とはきいてねぇなぁ」

エンドロールが流れている画面。結局最後の方をちゃんと見れなかったじゃない!コース料理でいったら最後のコーヒーに口をつけたら閉店だから出ていけっていわれたような、あ、これすごく腹立つんじゃない!?ひどい、コーヒーを味わって余韻に浸ってまでが楽しみなのに!

「コーヒーは最後まで飲みたい派なの!」

つい口をついて出た言葉、それにホルマジオはひょいと体を動かして「奇遇だな」、口角を上げて「コーヒー宜しく」。それはそれは楽しそうに言った。
目を眇めて体を起こした。もうこちらは見ずに画面を見ていたホルマジオの横顔が見える。まもなく終わる映画を最後まで見ていた。
ソファから這い出るように立ち上がって、そしてホルマジオをもう一度見た。私の視線になんて気付かないよう、いや気が付かない振りをしているだけかも、とも思ったけれど、案外その楽しそうな顔はいつもより幼くみえた。
なんだか毒気が抜かれてしまった。
「‥仕方ないなぁ」
小さく呟いたつもりだったのだけど。
「旨いコーヒーで頼むぜぇ」
こちらも見ずに弾んだ声が聞こえる。チャプターに戻った画面を見て、ホルマジオはリモコンに手をかけた。ディスクを出すのかな、と思いきやシーンサーチを弄り始めたのが意外だった。
「ねぇホルマジオ」
「あー?」
「マシュマロ買ってきてよ」
「テメェでいけよ」
やはりこちらを見ることもなかったけれど。

「コーヒーとマシュマロで、はじめからそれ見ようよ」
「‥しょうがねぇなぁ〜」

楽しそうな声で返事が返ってきた。リモコンを置いてソファから腰を上げる。キッチンの横を通り抜け様「ラストがいいよな」、ヒヒヒと笑いながらホルマジオは玄関に向かっていった。
私はもう一度それを見る覚悟を決め、とっておきの豆をゴリゴリと挽きはじめた。







24より転載
















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