222/メルト番外編

「イチー!」

2/22も終わるという時間にメローネが飛び込んできた。リゾットと私はテーブルで向かいあって私は炭酸水を、リゾットはワインを飲みながらいたから、メローネがやたら楽しそうに走り込んでくるのを2人で目の当たりにしてしまった。

「どうしたの?」

ニコニコと満面の笑みでいるメローネになんだか悪い予感がして、取り繕うように声をだした。メローネはその意味ありそうな笑みを崩さないで手に提げていた紙袋から「プレゼントがあるんだ」と、赤い首輪を取り出した。

「‥え?」
「だから、プレゼント。ちょっと上向いて」

言うままに私の額を左手で押して顎を上げさせてスルリと大きめの鈴がついたソレを首に回した「ちょっと!?」。
カチンと金属音がして留め金がしまったのがわかった。

「あぁやっぱり、赤が似合うなぁ」

殊更のんびりとメローネはいう。その笑顔のまま、更に私の頭に猫耳がついたカチューシャをかけた。瞬間リゾットがガタンと椅子を鳴らして腰を滑らせた。

「メローネ、これ‥」

私はメローネを呆れながらも睨んだ。意に介さずメローネは楽しそうに「ミャアって言ってよ」。
「言わないわよ」
頭のカチューシャを取って投げ返した。メローネは笑顔のままそれを拾って「照れるな」、また頭に差してくる。しつこいわね!
そんなやり取りを2回3回として、メローネがまた私の頭にカチューシャを差してからちょっと低い声で「調教が必要かな?」、そう言った。

「メローネェ!?」
「イチが楽しんでくれなきゃ意味がないんだからさぁ!まず心構えから教えることにしよう!」
「意味わかんないわよ!」
「今日は2/22!ニャンニャンニャンの日だろ!?」
「更に意味わかんないわ!」
「リーダー、どうだい!?猫耳のイチ!」

リゾットの方に向き直ってメローネは言った!忘れていたわ、静観していたリゾットの存在!いたたまれない私はカチューシャを取ろうとしたけど、メローネにその腕をガシッとつかまれてしまった。

「ね、かわいいだろう?」

グラスのワインを口に運びながらリゾットが私をチラリと見た。すぐに視線は戻したけれど、メローネの問いかけには応じずに「嫌がるのに無理強いは好かんな」、そう言った。
つまらなそうに口を尖らせたメローネは「せっかくの猫耳プレイのプレゼントだったのにぃ」、悪びれもせずに言う。
やっぱりそうよね!大した嫌がらせね!

でもリゾットの一言で思惑が外れたのだろう、「ごめんよ」と小さく言った。
なんか、急にしおらしくなるなんて調子狂うわ。メローネが先程とは違う、眉を下げるように笑うから戸惑うじゃない。だからほんの少しの優しさから「猫耳なんてはじめてつけたわ」、ちょっと笑いながら言った。

その瞬間にポケットから携帯を出したメローネがカシャリとシャッター音を鳴らした。

「え?」
「やっぱりイチかわいいなぁ!ギアッチョにも見せなきゃね!」

指先で携帯をいじり瞬く間に「送信しといたから!」。
「ちょっ、ちょっと待ってメローネ!何を今っ!」
「ギアッチョにも見せようと思ってさ、2月22日記念」

さらりと言うけど!私はまだ片手を掴まれたままで、その携帯をへし折ってやろうとメローネに掴みかかった。あんな恥ずかしいもの、ギアッチョにはもう仕方ないけどデータだけでも消さなくちゃ!
テーブルに腰掛けたメローネが右手で携帯を高くにもっている。いくら手を伸ばしても私には届かなくって、それでも携帯ばかりを追っているうちにメローネに抱きつく形になっていつの間にか腕を掴んでいた手は背中に回っていた!

「メローネ!」
「ねこじゃらしを追う猫みたいだぜ?」

至極楽しそうに笑いながら、背中の手を腰に回され、そっちを振り解こうとしたら「タイムアウト」、リゾットが私を後ろから抱えるようにメローネから引き離して、さらにメローネの手にあった携帯を取り上げていった。

「リゾット!携帯!」
「うわ!リーダー返して!」

リゾットがメローネの携帯を弄ると直ぐにさっきのデータを見つけたのか指が止まり、そして次の瞬間に携帯が真っ二つに折れ曲がった!

「あああ!」

メローネが叫んでその残骸をリゾットの手から受け取った。なんだか私がすまない気分になったけれど、これは仕方ないわよね!メローネにカチューシャを返して「悪乗りするからよ」と言ったら、「だからごめんって先に謝ったのに!」。

テーブルに項垂れたメローネ。けれどすぐに立ち上がって玄関に向かって歩きだした。
「メローネ、気をつけて帰ってね!」
言ったら振り返って「またくるから!」案外気丈な声で返ってきた。
バタンと玄関が締まる音がして、私とリゾットは顔を見合わせてしまったわ。

「タイムアウトって、なんだったの?」
「22日が終わったからな」
「そういう事だったのね」
ふぅんと言ったらリゾットが「災難だったな」と無表情に言った。
本当、災難だったわ。リゾットのほうに向こうとした時、首に違和感を感じて気がついた。

「首輪‥!」

耳に気を取られて忘れていたわ!そうだった首輪をつけられていたんだ。自分じゃみえないソレをどうにかしようとしたけど、やっぱり取れなくてリゾットの袖をひいた。

「とれないんだけど!」
「見せてみろ」

顎をあげた。屈むようにリゾットが私の首筋に顔を近づけてそして「‥メローネめ‥」、小さく呟いた。

「え?何?取れないの?」
顎をあげたまま聞いたらリゾットが顔をあげて「やられたな」。

「どういう事?」
「鍵が掛かっている。鈴の後ろに鍵穴がある」
「は、え!?鍵!?」
「すぐにメローネを」言いかけてリゾットは自分の携帯を取り出し、そのままその手を自分の口に当てた。
そうよね!そうよ!メローネ呼び出したいけど
「携帯壊したのよね‥!」
言ったらリゾットが眉間に皺を寄せてチッと舌打ちをした。

「どうしようコレ!仕事にもいけないわよ!」
「とりあえずきろう」
「切れるの?なんか明らかにぶ厚い素材なんだけど!」
レザーのような、やたらしっかりとしたその首輪。私が動く度チリンチリンと音がする。ハサミやら工具を並べ兎に角試してみた。
しかしなかなかに切れないこの首輪をどうすることも出来ず、やがて空が白んできたころ、どこからか見ていたようなタイミングでメローネが片手に携帯の最新機種が並ぶパンフレットと、もう1つの手には小さな鍵を持って笑顔でやってきた。

もちろんそこからは私との交渉ではなくリゾットとの交渉。私は頬杖をついて大きな欠伸を遠慮なくさせていただいた。




※拍手お礼小説より再掲









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