ゆらゆらゆらり/メローネ

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「めい」
呼ばれて振り返ると後ろから抱きついてきた。
「どうしたの?」
甘えるように肩口に額を押し当てて「んー」とか唸っている。

お昼に食べた食器を洗っていた私は構わずに続けて、でもメローネはそれを何も言わないで、ずっとくっついていた。

洗い終えた私は「どうしちゃったのよ?」笑っていったけどやっぱり答えてくれなかった。

夕べから一緒に居るしメローネがしたいっていうから朝にだってセックスした。ご飯を二人で食べて、お皿も洗い終わった。そのままメローネの家の広いベッドにメローネ毎倒れこんで、私は昨日買った雑誌を捲りだした。来月の私の運勢はどうでしょうか?ラッキー、金運絶好調!恋愛運はなだらかに上昇傾向!

「めい」

ベッドの上でやっぱりくっついていた時、私の腰あたりにあった手でそこら中をさすりながらメローネが「めいの足、好きだぜ?」。
「ありがと、急になによ」
「オレがさ、思いっきり殴ったら骨とか砕けちゃいそうだろ?首だって、絞めたらすぐ折れそうだ」
「折る気?」
「いや、そんな気分じゃあねぇ」

メローネはベッドに居直ったけど、私の腰にある手は片方そのままにして「ふむ」と言った。

私は次のページをめくるとコスメの新作レビューが載ってる。キラキラとかわいらしい宝石のような入れ物に目が眩む。欲しいな、使わない気もするけれど、こういうものを手に入れたくなってしまう。
雑誌の1ページに目を奪われていたら、いきなりメローネが

「めい、外行こうぜ」

言い出した。だからつい「えぇ?!」、大袈裟に驚いてしまった。

「ダメだ、中にいちゃあ。腐っちまう」
そういうとメローネはさっさとベッドを降りて立ち上がった。靴の踵に人差し指を突っ込んで靴を履いている「ほら、めい起きろよ」

「外に出てどうすんのよ」
「出てから考えよう」

私の足元にパンプスをおきベッド端の床に跪いて、まるで従者のように恭しく手を差し出してパンプスを足に添えてくれる。

時々メローネはまるで芝居のような事をする。話し方だったり振りだったりするけれど、それが彼の奇態に拍車をかけながらもアイデンティティのようでおかしかった。

ふふふと笑えばその手を差し出して「さぁ行こう」と私の手を引いた。



「本当にどうしちゃったのよ」
「なんにもないさ」

そうなんだ、偶には街中をフラフラしたいだけなんだ、まるで独り言のよう呟いて私を連れて行く。

「ねぇメローネ」
「んー」

楽しそうに、弾むように答えてくれる。握ってる手もやっぱり楽しそうに何度も握り方を変えながら、街を歩いていく。

なんだか私も楽しくなってきて、街を見渡してみた。花屋には色とりどりの様々な花が咲き乱れて、パン屋からはいい匂いが流れてくる。二人で昼下がりの街並みをゆっくりと歩いていくなんて、今までなかったかもしれない。

「デートみたいね」

つい言ったら、フフとメローネは笑って「恋人のようだ」、言って指を絡め直した。

本当にどうしちゃったんだろう。機嫌がこんなにいいメローネ、あんまり見たことないかも知れない!

「めい、ジェラテリア行こうぜ」
「フラゴーラは私のものよ」

笑って言ったらオレはピスタチオがいい、あの若い豆の匂いがたまらない、そう笑って返される。午後の街はゆったりとして穏やかに時間が流れていく。誰も急いでいないし、街は静かに時計を回していく。

ジェラテリアでテイクアウトしてそのままに公園へ向かった。日当たりのいいベンチが1つ、ぽつんとあって、引き込まれるように歩いた。

まだ肌寒い春のはじまりに、片手を冷たくしながら、もう片手は繋いだまま暖かく。

「変なの」
「何が」
「だって、メローネとこんなデートすることになるとは思わなかったわ」
「いつも家に居たら腐るだろ?」

脳髄とか、血が赤い色をしなくなってしまいそうじゃあないか、大仰に言うけど、それがメローネらしくってまた可笑しくなってしまった。

それを見てメローネはベンチの背もたれにくつろいで、フフと口元に笑みを浮かべた。

「日光ってのには人間を元気にする成分があるらしいぜ」

とろけるジェラートを口に運びながら。

「精神的にも安定するらしい」
「へぇ」
「たまにはこうやって消毒されるのもいいだろ?」
消毒って言葉があまり繋がらなくて「んー」と濁した私にメローネはやっぱり笑って「太陽ってのは無償の愛みたいじゃあないかい?」。

もう一度、へぇ、と答えた。
そしたら「興味ないみたいだな」、呆れた様に。
「メローネの話が難しいから、眠くなっちゃうわ」
午後の科学の時間みたいにね。そう言ったらフフっと笑って「担いで帰るのはごめんだ」と、やっぱり楽しそうに言う。

食べ終えて、ゆっくりとベンチを立ち上がる頃、少しだけ陽が傾きかけた頃、街のバールはおしゃべりする人が溢れ出る。ウィンドウに灯りがついて、華やかな通りが浮かんできていた。

フラリフラリ。

ウィンドウに映る自分たちの姿が、まるでキラキラとする中に入り込んだように見えた。雑誌で見たジュエリーのようなコスメもあって、ついその店の前で立ち止まってしまった。手を繋いでいたメローネも一緒に立ち止まった。


「どうした?」
「かわいいの」
「あぁ」


ウィンドウの向こうに並ぶそれらはガラスに浮かんだ私の手に触れている。ちょっとしてからメローネが中でみるかい?と手をひくけど。

「此処から見てるので十分」
「そう?」
「うん」

だって此処なら二人で触れられる。キラキラと浮かぶウィンドウの中にあるソレは、ウィンドウの中の私が手に入れた。それが、陽が傾きだして、ゆらゆらと揺れだした。風が吹きだした。

「ねぇメローネ」

やっと歩きはじめた私たちの後ろから風が緩く吹いている。

「偶にはこうやって消毒されるのも、いいわね」
「だろう?」
「みて」

次のウィンドウに映し出される姿を指差して、恋人のようね、と笑ったら、恋人だろう?と首を傾げられた。
無償の愛が届くのなら風のままに揺られていよう。






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