そうであったらいいのに、と。
願う
「名前〜、ポッキーちょーだい!」
昼休み、堂々と大声を出しながら教室に入ってくるジローは、私の幼馴染み。ちょ、ポッキー持ってること先生にバレたらどうするの!
私の席まで駆け寄ってくるジローの袖を引っ張り、内緒だからコッソリだよ、と注意したら、分かってるのかそうじゃないのか分からないけど威勢のいい返事をした。
「で、今日は何味?」
『えーと、今日はね‥じゃーん!』
「うおおすげえ!冬限定の高いやつだ!」
やばい、自分もテンションがあがって思わず声が大きくなっちゃった。そして、ジローもまた声が大きくなっちゃってるので、慌てて口許に人差し指を立てて見せた。
いや、でもコレはテンション上がっても仕方ないやつ。なんせ、ポッキー界でもレジェンド級の高級品なんだから。そして、私の一番のお気に入りのポッキーでもある。
「ちょーだい!ちょーだい!」
『ちょっと待ってね、‥はい、どうぞ』
「ありがと名前、いただきまーす」
袋を開けて差し出すと、慣れた手つきで一本取り出して口に運ぶジロー。それにつられて、私も一本。
こうして昼休みにジローにポッキーをあげるようになったのは、いつからだったっけ。気付いたら日課の一つになっていたし、日替わりで色々な味を用意するようになっていた。
「‥ん、名前、ごちそーさま!」
『うむ、苦しゅうない』
一袋食べ終えると、満足そうな顔。そして、先生に見つかる前に残りのポッキーを慌てて鞄にしまいながら、自分の教室まで帰っていくジローの背中を見送るところまでが、私の日課。
‥なんだけど、今日のジローは何故だかなかなか教室に帰ろうとしない。私の真横に立って、真剣な表情でこちらをジッと見下ろしたまんま。
『ジロー‥?』
「‥俺、毎日ただポッキー食いにきてるだけじゃないからね」
『うん、‥え?』
「名前からもらうから、意味があんの」
わかる?と、少し屈んで私の顔を覗き込んでくる。今までジローと過ごしてきた中で、顔同士の距離が一番近い。私の視界が、ジローでいっぱいになる。
その言葉の意味が分かるか、だなんてそんなことは愚問だ。それなら、こちらだって何とも思っていない相手に、わざわざ毎日好物を分け与えたりしない。しかも、飽きないように毎日違う味を用意するなんて。
『ばかジロー、明日はいちご味ね』
「やりぃ!すっげー楽しみ!」
私たちの関係が幼馴染み以上になるのは、そう遠くないかもしれない。けれど、この関係の続く先はきっとそこにあるはずだ、と思うんだ。
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