どっちかに決めるなんて、無理。



悩む





『うう〜‥』
「どうしたの名前、さっきから唸って」


もしかしてアレ?薬あげよっか?って優しくしてくれる友達がそばに居てくれて、私は本当に幸せ者だ。でも、残念なことに、くれようとしているその薬では、何の解決にもならないんだ。ごめんね、ありがとうをジェスチャーで伝える。


『‥もしさ、同時に2人から告られたらどうする?』
「うーん、どっちか好きな方と付き合うかなぁ」
『どっちも同じくらい好きだったら?』
「そりゃあ‥‥二股?」


なーんてね、って可愛く舌を出しても、言ってることの大胆さはちっとも変わらない。二股、かぁ。考えたこともなかったなぁ。‥って勿論そんなこと考えちゃいけないんだけど。

参考にできない選択肢を頭から放り出したら、また悩みのタネに舞い戻る。そのタネはとても大きく、そして、昨夜突然に現れたものだった。


「俺、名前のこと好きやってん、ずっと」


どストレートに言い放ったのは、携帯越しの幼馴染みの声だった。寝ようとして布団に入った途端に着信がきて、他愛のない世間話をしていたその時。突然、真面目な声色でそんなことを言ってきたせいでこちらは全然寝付けなくて、お陰で目の下に隈ができてしまった。

電話の主である謙也とは、私が保育園のころ大阪に住んでいたときに家族ぐるみで仲が良かった。同い年ということもあって、もう1人の幼馴染みと共に毎日のように遊んでいたことをぼんやりと思い出す。


「なぁ名前、俺たち付き合わへんか?」


大事にするから、と頼もしい言葉を私の耳に残したのは、そのもう1人である侑士の声だった。侑士は前置きの話題もなく、いつも通りの落ち着いた口調でこれまたど直球に投げ込んできて、そして淡々と通話が終わっていった。

そう、昨夜は私が寝る前に幼馴染み2人から順番に電話がきて、それぞれが私に告白をしてきたのだ。まるで、2人で図ったような絶妙にピッタリなタイミングで。いや、というかこれは絶対図ったに決まってる。


「きゃー羨ましい!それで悩んでたのね」
『ううう‥どうしたらいいのかな、私』
「名前はどっちかと付き合うつもり、あるの?」


友達にそう聞かれて、ふと考えてみる。

謙也も侑士も、小学校に上がるタイミングで関東に引っ越した私に、頻繁に手紙や電話をくれる。中学生になった今でも、それは変わらない。侑士は中学校入学と同時にこちらに来たけれど、だからって二人っきりで遊んだりすることはなく、いつも謙也が関東に来たタイミングで3人で遊んでいた。

私の中では、謙也と侑士は、同じくらいに大好きで大切な幼馴染み。どちらかがより好きだなんて、そんな優劣はつけられなかった。


『‥ありがとう、スッキリしたかも』
「ん、どういたしまして〜」


むしろ紹介しろー、なんて茶化してくる友達は本当に優しい子。もう少し落ち着いたら、2人に紹介してあげよう。ああ、でもあの2人には少しもったいないかな、なんて。

今晩、寝る前に電話をしよう。今の私の素直な気持ちを伝えるために。それが終われば、今晩はよく眠れそうな気がする。


『もしもし?あのね、昨日のことなんだけど‥』









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