「名前ちゃん、見て見て〜」
『わあ、可愛えねぇ』


そう言う小春ちゃんの手には、折り紙で作られた織姫と彦星。なんや必要以上に二人の顔がくっついとる気がするんは、きっと私の気のせい。


「今年は晴れそうやし、二人もきっとええデートできるわぁ」
『せやねぇ、最近は雨ばっかやったしね』


「ホンマホンマ」と相槌を打つ小春ちゃんは、まるで近所のおばちゃんみたい。織姫と彦星が会えることを本当に喜んどるようで、やっぱ小春ちゃんは他の奴らと違うて心優しい人や。

小春ちゃんはいつでもそう。例えば私や他の皆のことかて、まるで自分のことのように、心配したり喜んでくれたり。普段おちゃらけとるように見せとっても、人の心の変化には、人一倍敏感な人やと思う。


「年に一遍の逢瀬のために、お互いお仕事に励むなんてロマンチックよねェ〜」
『けど、年に一遍しか会えへんようなったんは自分達の怠慢のせいなんよね?確か』
「んもォ!名前ちゃんたらイケズぅ!」


そして、一応ホンマもんの乙女である私よりも、遥かにロマンチストな小春ちゃん。どないしたらこない繊細な乙女心を手に入れられるんか、教えてほしいくらい。


『年に一遍言うたら、全国大会とおんなじやね』
「そうやねェ‥、せやから皆頑張れるんやないかしら」


手の中の織姫と彦星をくっつけたり離れさせたりしながら、小春ちゃんが言う。その動きは、ダブルス組んどるときの小春ちゃんとユウジに見えへんでもない。

この何気ない一言で、小春ちゃんは私の言いたいことを察したようで、次の瞬間には私の頭に手をそっと添えて優しく撫でてくれた。


「‥ぁあん、もう!名前ちゃん、泣いたら可愛えお顔が台無しやでェ〜?」
『うう、ごめん、けど、』
「その涙は、ウチらが全国制覇したときまで取っといてや?」


「ね?」と、お手製の織姫と彦星を片手で上手に動かしながら、笑う小春ちゃん。さすが小さい頃、お姉さんとお人形さん遊びしとったっちゅうだけある。

こない可愛え言動しといて言うとることは男前やなんて、小春ちゃんはホンマずるい。


『う‥、ごめんね』
「ええんよ、確かにこのメンバーでの全国は最初で最後やけど‥せやからこそ、ええとこまで行けるんちゃうかなってウチ思うねん、せやろ?」
『うん、そうやね、小春ちゃん』


短冊に書く願いなんて、はなっから一つしか思いつかんかった。このメンバーで戦える、最後の大会。出来るとこまで、ええとこまで、皆が後悔せぇへんように戦えますように。

普段は本心をあんまり見せへん小春ちゃんやけど、誰よりテニスに真剣で、誰より部のことを思うとる。そない小春ちゃんが居るから、私も皆も頑張れるんやと思う。


『あ、せや‥小春ちゃん、それ、』
「ん?織姫がどないしたん?」
『作り方教えて?そんで、‥』
「‥あら、それええわねェ!ほな早速作りまひょ!」


小春先生の丁寧な指導のおかげで可愛く出来た私の織姫と、小春ちゃんの彦星を仲良く並べて笹に飾る。短冊の代わりに、私たちの願いを込めて。

小春ちゃんが、織姫と彦星に向こうて何や手を合わせとったけど、何を願うてたんか聞いても教えてくれへんかった。


「可愛え名前ちゃんのために、てっぺんまで行けますように」










小春ちゃんと、織姫と彦星と、私


back



- ナノ -